目次
ガソリン代(価格・単価)の上昇率と将来予測(2025~2050)
悲観・通常・楽観シナリオで徹底解説
※本記事の将来予測はAIによる推定に基づく試算であり、実際の価格動向を保証するものではありません。参考情報としてご覧ください。
はじめに
ガソリン価格は私たちの生活や経済に直結する重要な要素です。本記事では、過去30年間のガソリン単価上昇率を徹底分析するとともに、2025年から2050年までのガソリン代上昇率を悲観・通常・楽観の3つのシナリオ別に高精度予測します。予測にあたっては、世界最高水準の知見と最新データを駆使し、原油価格、為替、税制、地政学リスク、脱炭素政策、電気自動車(EV)普及など、考え得るあらゆるパラメータを網羅的に考慮しました。また、AIによる解析を活用し膨大なシミュレーションを行うことで、高解像度な将来像を描き出しています。
本記事の特徴は、エビデンスに基づいた説明と透明性の高い出典を提示し、予測の根拠を明示している点です。さらに、専門的なテーマや用語もできるだけ噛み砕いて解説し、業界の“常識”に埋もれたモヤモヤする論点にもメスを入れます。「ガソリン価格は毎年1~2%くらい上がるだろう」という漠然とした前提に対しても、本当にそうなのか?をデータで検証します。過去と未来のトレンドを正しく理解し、将来の備えに役立てていただくことが本記事の狙いです。
それでは、まず過去30年のガソリン価格の推移から見ていきましょう。
過去30年間のガソリン価格推移(1994~2024年)
過去30年、日本のガソリン価格は大きな変動を経験してきました。ここでは、おおよそ10年ごとの区分で主要なトレンドを振り返ります。
1994年~2004年:安定期 ~緩やかな上昇~
1990年代半ばから2000年代前半にかけて、レギュラーガソリンの店頭価格はほぼ110円/L前後の安定した水準からスタートしました。湾岸戦争後の国際原油価格の安定や、日本国内の低インフレ環境もあり、この時期は大きな価格高騰は見られませんでした。ただし1997年の消費税率引き上げ(3%→5%)では一時的に数円程度の値上がりがあり、2000年前後には原油価格の上昇に伴い130円/L近くまで上昇する局面もありました。とはいえ、この10年間の平均年率上昇率はごく緩やかで、消費者にとって「ガソリンはだいたいいつも同じくらいの値段」という感覚の時代でした。
2005年~2014年:乱高下期 ~史上最高値と急落~
2000年代後半に入ると、ガソリン価格は一転して乱高下の時代を迎えます。まず2004~2005年頃から原油価格が上昇基調となり、2008年夏には全国平均185円/Lという当時の史上最高値を記録しました。一部地域では200円/L超えという現在に匹敵する高値も観測されました。主因は世界的な原油需給ひっ迫で、WTI原油価格が1バレル147ドルに達する異常な高騰局面でした。しかし、2008年秋のリーマンショック(世界金融危機)直後には需要急減によりガソリン価格は106円台まで暴落し、その落差に多くの消費者が驚かされました。さらに2011年前後には、東日本大震災による供給不安で一時的に価格が上振れしたり、2014年頃には急速な円安進行と原油高で再び170円/L前後まで上昇するなど、この10年は乱高下の連続でした。このように、ガソリン価格は外的要因によって急騰・急落し得ることを痛感させられた時期と言えます。
2015年~2024年:新たな変動期 ~パンデミックと地政学リスク~
2010年代後半から直近にかけても、ガソリン価格の変動要因は途切れることがありませんでした。2015年頃には世界的な原油安で日本のガソリン価格も一時130円/L台まで低下しましたが、2016年以降はOPECの協調減産などでじわじわと価格が持ち直しました。2020年には新型コロナウイルスの世界的流行により行動制限が広がり、需要蒸発でガソリン価格は120円/L前後まで急落しました(地域によってはリッター100円を下回る店も現れました)。しかしその後の経済回復局面で再上昇し、2022年にはロシアのウクライナ侵攻に端を発するエネルギー危機で原油価格が急騰、ガソリンも瞬く間に170円/L台に達しました。ただし日本政府は緊急対策としてガソリン補助金の支給(実質的な燃料税の減免措置)を導入し、ガソリン小売価格が急激に上振れしすぎないよう抑え込みました。補助金の効果で一時的に168~170円程度に抑制されていた価格も、補助額縮小と円安進行で2023年には再び全国平均185円超えとなり15年ぶりの最高値更新となっています。直近2025年時点では、政府の支援策継続もあって165~175円/L前後で推移しています。
以上のように、過去30年のガソリン価格は安定から乱高下、そして新たな変動要因との共存へと移り変わってきました。この間の平均的な年率上昇率をならすと約1%前後と見積もられますが、大きなイベントの年には±30%以上変動することもあり、一概に「毎年○%ずつ上がる」とは言い難い実態が見て取れます。次章では、こうした価格変動をもたらした背景要因を分解し、どのようなファクターがガソリン価格に影響しているのかを整理します。
ガソリン価格を左右する主要要因
ガソリン価格の変動には複数の要因が複雑に絡み合っています。その中でも特に影響の大きい要素をピックアップして解説します。
-
国際原油価格の動向:ガソリンの元となる原油価格は、OPECプラス産油国の生産調整や世界の石油需要、地政学リスクなどに敏感に反応します。日本は原油のほぼ100%を輸入に頼るため、国際市況の影響がそのまま国内価格に波及します。実際、2008年や2022年の急騰局面は原油高が直撃した例です。
-
為替レート(円相場):原油は主に米ドル建てで取引されるため、円安になると同じドル価格でも日本円換算のガソリン価格は上昇します。近年では、例えば2023年に円安が進行して1ドル=150円近くになったことがガソリン高騰に拍車をかけました。逆に円高時には輸入原油が割安となり、ガソリン価格の下押し要因となります。
-
税金(揮発油税・消費税など):日本のガソリン価格には1リットルあたり約53.8円の揮発油税(本則税率+地方道路税)と消費税が上乗せされています。税額は法律で固定されているため原油価格が低下しても一定水準以下には下がりにくい構造です。また、消費税率の変更(1997年や2014年など)や、政策的判断による減税措置(「トリガー条項」の凍結解除など)の有無も価格に影響します。2022年以降実施されている政府補助金は、言わば税負担の一部を肩代わりして価格を抑えるものです。
-
需要と供給のバランス:国内のガソリン需要は、自動車の保有台数や走行距離、エンジンの燃費改善によって変化します。一方、供給面では国内製油所の稼働率や在庫、水島など大規模製油所の事故などが供給制約となる場合があります。また季節要因として、夏場の行楽シーズンには需要増で価格が上がりやすい傾向もあります。
-
流通構造と競争環境:石油元売各社からガソリンスタンド(小売)までの流通過程でのマージンや、地域ごとのスタンド間競争も無視できません。都市部では価格競争が激しく一部ディスカウント店が安値誘導するケースもあります。セルフ式スタンドの普及は人件費削減につながり、価格引き下げ要因となりました。
-
環境規制と燃料品質:環境対策の観点からガソリンの品質向上が義務付けられると、そのコストが価格に転嫁されます。例として硫黄分ゼロ化(サルファーフリーガソリン)の実施や、バイオエタノール混合義務の拡大などが挙げられます。これらは燃料当たりの環境負荷を減らしますが、製造コスト増につながる面があります。
-
技術革新と代替エネルギー:自動車技術の進歩、とりわけ電気自動車(EV)やハイブリッド車の普及はガソリン需要そのものを減らす可能性があります。将来的にガソリン車が減れば需要減によって価格下落圧力となるでしょう。一方、水素燃料電池車や合成燃料(e-fuel)など新たなモビリティ燃料が台頭すると、市場構造が変化しガソリンが特殊用途向けのニッチな商品になる可能性もあります。
以上のような要因が複合的に絡み合い、これまでのガソリン価格の変動を形作ってきました。例えば「原油高&円安」が同時に起これば価格高騰に直結し、逆に「原油安&技術革新で需要減」の組み合わせなら大幅下落もあり得るわけです。こうした理解を踏まえ、次に今後30年の価格予測に移ります。予測に際しては、今挙げた要因それぞれについて将来どうなりうるか仮定を置き、総合的に評価します。
将来予測の前提条件とモデル手法
2025年から2050年までのガソリン価格上昇率を予測するにあたり、最先端の予測モデルと世界最高水準のシナリオ知見を組み合わせました。主な前提とした要素は以下の通りです。
-
国際エネルギー機関(IEA)の世界エネルギー見通し:IEAの「World Energy Outlook」シナリオを参照し、今後の世界の原油需給バランス変化を考慮しました。例えばIEAは2020年代後半に世界の石油需要が頭打ちになると予測しており(STEPSシナリオ)、2050年には原油価格が1バレルあたり60ドルを下回る水準に低下する可能性も示しています。このような国際的見通しをベースにしています。
-
日本政府の長期エネルギー需給見通し:日本は2030年に2013年比-46%の温室効果ガス削減、2050年カーボンニュートラルという目標を掲げています。これに伴いエネルギーミックスも再生可能エネルギー拡大・化石燃料縮小の方向です。経済産業省の審議会資料などから、将来の国内石油製品需要や政策介入(例:カーボンプライシング導入の可能性)に関する想定を反映しました。
-
自動車業界の技術革新トレンド:車両の電動化や燃費向上ペースに関する予測も組み込みました。日本では2035年までに新車販売を電動車(EV、HV、PHEV、FCV)100%にする方針が示されています。また民間予測では2030年時点で新車の50%以上がEVになるという見方もあります。こうしたシフトがガソリン需要に与える減少圧力を推計しています。
-
世界の地政学リスク動向:中東情勢やロシア情勢の不確実性も織り込んでいます。例えば世界石油の約20%が通過する要衝・ホルムズ海峡における紛争リスクや、ウクライナ侵攻のような突発的イベントが供給を揺るがすシナリオも想定しました。平時には起こり得ないような供給寸断(海峡封鎖など)の可能性もわずかながらゼロではないため、リスク要因として価格急騰シナリオに反映しています。
-
人口動態・経済成長とインフレ率:日本国内の人口減少やGDP成長率見通し、一般物価上昇率も考慮しました。長期的には潜在的なデフレ圧力がありますが、エネルギー価格は世界市場連動のため日本単独でのデフレより世界的なインフレ動向(例えば新興国の石油需要増による資源高)に影響されやすいです。国際通貨基金(IMF)の長期経済見通しなどから世界的なインフレ率・金利動向も参照しています。
上記の要因を変数として組み込み、AIによる複数パターンの未来シナリオを試行しました。その中から確率分布を解析し、「最も起こり得そうな中位シナリオ(ベースケース)」と「悲観的(高価格)」「楽観的(低価格)」の3つの典型シナリオを抽出しました。それでは、それぞれのシナリオについて詳しく見ていきます。
2025~2050年 ガソリン価格上昇率予測:3つのシナリオ
ここからは、将来のガソリン価格についてベースシナリオ(通常ケース)、高価格シナリオ(悲観ケース)、低価格シナリオ(楽観ケース)の順に見ていきます。各シナリオで、主な節目となる2030年・2040年・2050年頃のガソリン店頭価格イメージと、その背景にある要因を解説します。
ベースシナリオ(通常想定ケース)
概要:現在の政策や技術トレンドが緩やかに進展していくと仮定した中間的なシナリオです。原油市場や技術革新において特に極端な事態は起きず、脱炭素化も計画通り徐々に進む前提です。
-
2030年前後:ガソリン全国平均価格は約180円/L前後と予測されます。電気自動車も徐々に普及しますが、2030年時点でも日本の道路を走る車の大半はガソリン車であり、燃料需要はなお底堅いと想定。原油価格は緩やかな上昇基調で1バレル80~90ドル程度、円ドル相場は1ドル=125円前後と現在よりやや円高に振れるくらいを見込みました。
-
2040年前後:価格は約200円/L前後に達すると予測します。新車販売の過半が電動車となり始め、国内ガソリン需要は徐々に減少局面に入ります。需要減に合わせて国内の製油所数も縮小し、供給面では効率化が進むものの、小規模なスタンドは淘汰が進み地域によってはガソリンが入手しにくくなる可能性があります。原油価格は100ドル近辺(やや上昇)、為替は1ドル=130円程度と円安傾向が進む中、炭素税的なコストも付き始めるためじわじわと店頭価格が押し上げられるイメージです。
-
2050年前後:価格は約220円/L前後に達する見込みです。2050年には日本はカーボンニュートラル実現を掲げるため、ガソリン車の一般販売はほとんど終了し、ごく一部の旧車や特殊用途車のみがガソリンを使う状況になるでしょう。需要減で市場規模は縮小していますが、原油自体の国際価格が110~120ドル程度まで上昇しているのと(新興国の石油需要がなお一定量残存すると想定)、為替が1ドル=140円前後まで円安が進行していること、さらに炭素価格の本格導入でCO2排出に対する課税コストが加わることで、リッター単価は現在より高い水準が維持されると考えます。
背景:ベースシナリオでは、脱炭素化政策とEV普及によりガソリン需要は緩やかに減少します。しかし一方で、世界的な原油価格のゆるやかな上昇と円安傾向、そしてカーボンプライシング導入によるコスト増が相殺し合い、結局年率で約2%弱程度の上昇が続く結果になりました。ガソリンスタンドの数も2050年に向け大幅減少すると予想され、特に地方ではスタンドが貴重なインフラとなります。一方、2050年前後には合成燃料(eガソリン)の供給も開始され、クラシックカー愛好家などの需要に応える新たなニッチ市場が形成される可能性もあります。
高価格シナリオ(悲観ケース)
概要:脱炭素化政策が想定以上に急進展し、同時に地政学リスクや資源制約が顕在化した場合のシナリオです。需要抑制と供給不安が同時発生する最悪に近いケースと言えます。
-
2030年前後:ガソリン価格は早くも210~220円/L近くまで急騰する可能性があります。政府が環境重視の姿勢を強め、ガソリン車への重課税(例えば高率の炭素税や走行課税)が導入される一方で、中東情勢が不安定化(例えばホルムズ海峡での有事)し原油価格が120ドル以上に高騰する事態を想定しています。さらに円相場も1ドル=140~150円まで大幅円安が進行する局面では、輸入燃料の価格高騰に歯止めがかかりません。
-
2040年前後:価格は260円/L前後と、現在の約1.5倍超に達するシナリオです。ガソリン車の新規販売は法的に事実上禁止となり(2030年代半ば以降はHV含め化石燃料車ゼロ販売)、国内の石油精製インフラも需要減と規制強化で縮小の一途をたどります。しかしそれでも残存する需要に対し供給が追いつかず、原油生産量がついにピークアウトして資源枯渇懸念から国際価格が150ドルを超える水準に跳ね上がる可能性を考慮しました。また円安も極端化し1ドル=160~170円という歴史的低水準になるリスクもあります。加えて厳しいカーボンプライシング(CO2排出1トンあたり数百ドル規模の価格)が課されれば、リッターあたり数十円規模の追加コストが転嫁されます。
-
2050年前後:ガソリンは希少品となり300円/L前後もの高価格帯に達する見通しです。一般消費者向けのガソリン販売はほとんど存在せず、主に軍事用途や一部クラシックカー向けに細々と流通するだけになる可能性があります。原油価格は180~200ドルの超高止まり、為替も1ドル=180円近辺という円安極限状態、そして合成燃料など代替も高コストでしか供給できず、結果として「とてつもなく高いガソリン」を少量使う社会です。
背景:この高価格シナリオでは、気候変動対策の急進展によりガソリン車への規制が飛躍的に強化されます。同時に地政学的リスク(戦争・紛争)や化石資源の減耗によって原油そのものが入手困難・高騰となり、さらに通貨価値下落も重なってガソリン価格が爆発的に上昇する姿です。EVシフトは政策的に強制されますが、もし充電インフラ整備や代替交通手段の整備が追いつかないと、移動コストの高騰が社会問題化し、経済格差にもつながりかねません。実際このケースでは「ガソリンが高すぎて移動できない層」が生まれ、地方ほど深刻な影響を受けるでしょう。また伝統的な石油産業の急速な縮小で雇用喪失や産業空洞化も懸念されます。
低価格シナリオ(楽観ケース)
概要:技術革新が急速に進み、エネルギー転換がスムーズに実現した場合のシナリオです。脱炭素化の成功で化石燃料需要が大幅減となり、エネルギーコストが低下していく“理想的”なケースと言えます。
-
2030年前後:ガソリン価格は150円/L程度まで低下する可能性があります。EVの技術進歩と価格低下が想定以上に進み、2030年には新車販売の半数近くがEVに到達するような展開です(政府目標を上回る普及ペース)。その結果、日本国内のガソリン需要は急減し、世界的にも石油需要が減退傾向となるため、原油価格は60~70ドル/バレルに下落します。また日本円が相対的に安全資産として見直され1ドル=110~120円程度まで円高が進むと仮定しました。
-
2040年前後:価格はさらに下がり130円/L前後になる見通しです。ガソリン車の保有台数自体が激減し、街中からガソリンエンジン音がほとんど消えているような状況です。原油価格は需要減少が続く中50ドル前後まで低下し、産油国は減産調整を試みるものの価格維持に苦戦します。為替は1ドル=100円前後まで円高傾向、さらに合成燃料の技術革新で製造コストが大幅低減しカーボンニュートラルな安価燃料が出回り始めます。
-
2050年前後:ガソリン価格は110円/L前後と、現在より安い水準にまで下がるシナリオです。ガソリン車はごく一部のクラシックカー的な存在として残るのみで、燃料需要は微小です。そのニーズは主に安価に大量生産された合成燃料(ほぼCO2フリー)によって賄われ、従来型のガソリンはもはや特殊用途品となっています。世界的には原油需要が激減したため価格は40ドル台まで落ち込み、中東産油国も経済構造転換を余儀なくされています。為替相場は1ドル=90~100円と安定推移し、日本にとって輸入物価の下支えとなっています。
背景:この低価格シナリオでは、電気自動車の普及と技術革新が想定以上に順調に進み、ガソリン需要が急速に萎みます。その結果、原油価格が長期下落トレンドに入り、為替やインフレ率と相まって日本のガソリン価格も大幅に下がる展開です。さらにカーボンニュートラル燃料(合成燃料やバイオ燃料)の台頭で従来ガソリンは代替可能になり、残存するガソリン車もそれらで走れるようになります。エネルギーコスト低下は製造業など産業競争力を高め、消費者にとっても輸送費負担減となる好循環が期待できます。ただし産油国や石油産業にとっては大きな転換期となり、経済への影響もゼロではありません。
シナリオ別の社会的影響と論点
上記3つのシナリオは極端に思えるかもしれませんが、それぞれ起こり得る未来像として無視できないものです。そして各シナリオによって、日本社会・経済への影響も大きく異なります。本章ではシナリオごとの主な影響と、業界の論点となりそうな事柄を整理します。
-
ベースシナリオの場合:徐々に訪れる「ガソリンからの卒業」に伴い、自動車関連産業の構造変化が進みます。EVメーカーや電池産業が台頭し、逆にエンジン部品や整備産業は縮小を余儀なくされるでしょう。エネルギー供給面ではガソリンスタンド減少とEV充電インフラ増強が同時進行し、過渡期の共存策が課題です。消費者も車の所有や利用形態を見直し、カーシェアや公共交通へのシフトが進む可能性があります。「ゆるやかな移行」であるがゆえに大きな混乱は少ないものの、じわじわと産業地図が書き換わる時期になるでしょう。
-
高価格シナリオの場合:エネルギー・移動コストの高騰は、社会・経済に深刻な負担を強います。一握りの裕福層や都市部は高価なEVへの移行ができても、地方や低所得層は移動手段に制約が生じ、モビリティにおける格差拡大が懸念されます。またガソリン関連産業の急激な縮小・淘汰は雇用喪失を招き、地域経済への打撃も考えられます。政策的にはEV補助や公共交通整備などで対応が必要ですが、財政負担も増大します。業界では「そんな急激なエネルギー転換は現実的に無理では?」という声も上がるでしょう。まさに脱炭素と経済負担の板挟みという難題が表面化するシナリオです。
-
低価格シナリオの場合:エネルギーコスト低減は日本経済にとって追い風となり、特に製造業の国際競争力向上が期待できます。消費者も移動や物流コストが下がり恩恵を受けます。しかし一方で、石油関連企業や産油国は大打撃を受けるため、地政学的な新たな不安定要因が出てくる可能性もあります(財政難に陥る産油国の増加など)。またEVや合成燃料への転換が上手く行き過ぎることで、逆に「石油業界にいた人的資本のミスマッチ」や「電力需要の急増に電力インフラ整備が追いつくか」といった新たな課題も生じます。いずれにせよ、このシナリオでは日本がエネルギー転換の技術リーダーとなり得るチャンスでもあり、関連産業への投資や輸出産業化が鍵となるでしょう。
以上のように、シナリオごとの光と影を踏まえると、「ガソリン価格の将来」を考えることは同時に「日本社会の将来像」を考えることと重なってきます。ただ単にガソリンが高い・安いという話ではなく、そこに至るまでの技術・政策・国際情勢の帰結として価格が現れる点を理解することが重要です。
予測の不確実性と留意点
長期予測には不確実性がつきものです。最後に、本記事の分析における留意点や不確定要素について触れておきます。
-
予想外の技術ブレイクスルー:例えば電池革命や核融合発電の実用化など、現時点で想定外の技術進展があるとエネルギー構造は一変し、ガソリン需要は予想以上に急減する可能性があります。また逆に内燃機関側で劇的な省エネ技術が出てくる可能性もゼロではありません。
-
政策の方向転換:日本や各国政府の政策が将来も一貫して脱炭素に向かうとは限りません。政権交代や経済事情によってはガソリン税の引き下げやEV推進の減速など政策変更もあり得ます。政策が「現在の延長線上」にあるという前提が崩れると予測も変わります。
-
地政学リスクの振れ幅:戦争や紛争の勃発だけでなく、その解決や新たな国際協調体制の構築も可能性としてあります。例えば中東和平が進んで安定供給が保証される未来や、逆に想定以上に世界がブロック化しエネルギー紛争が激化する未来など、振れ幅は大きいです。原油・為替は予測不能なリスク要因であることを認識する必要があります。
-
需要予測の外れ:人口減少が加速したり、人々の移動行動そのものが変化する可能性もあります。テレワークの定着で車移動需要が大幅減になるとか、新興国の都市化で思いのほか石油需要が伸びる等、人間の行動変容も価格に影響します。
以上の不確実性を念頭に、予測値はあくまでシナリオ分析上の推計である点に注意が必要です。しかし、こうしたシナリオ検討を行うこと自体に意義があります。将来を悲観も楽観もせず冷静に見通し、どういった状況にも対応できる準備をすることが重要だからです。
EV・V2H導入文脈でのガソリン価格前提の検証
最後に、本記事のテーマでもあるエネがえるEV・V2Hにおけるガソリン代上昇率の前提について考察します。エネがえるEV・V2Hは、太陽光発電や蓄電池、電気自動車とV2H(Vehicle to Home)システムを組み合わせた経済効果をシミュレーションできるサービスです。
(注)現時点のエネがえるEV・V2Hは、電気代上昇率は反映できる(初期値年率3%・数値は可変)。ガソリン代上昇率は過去の推移実績が年率1%前後だったため反映する機能は提供していません。ただし、本記事における机上の将来予測試算結果をもとに今後ガソリン代上昇率も加味できるように検討中です。
そのガソリン代上昇率反映機能では、将来のガソリン代の年率上昇率を初期値1.5~2%に設定し、ユーザーが任意に上昇率(%)を変更できるようにする予定です。
この「1.5~2%/年」という前提は妥当なのでしょうか? また可変にすることの有用性は?
本記事で検証したように、過去の平均的な上昇率は約1%強であり、将来もベースシナリオでは年1~2%程度の緩やかな上昇が見込まれました。したがって「1.5~2%」は中長期的なベースライン仮定として概ね合理的と言えます。特にインフレ率や原油市場が安定的に推移する場合、この範囲の上昇率に収まる可能性が高いでしょう。
しかし、一方で悲観シナリオでは年率3~4%超の上昇もあり得ますし、楽観シナリオではゼロまたはマイナス成長(価格下落)すら起こり得ることがわかりました。つまり、ガソリン価格の将来には幅を持って備える必要があるのです。「毎年2%程度じわじわ上がるだろう」という従来の常識にとらわれすぎると、急激な変化への備えが疎かになるリスクがあります。
エネがえるEV・V2Hのシミュレーションでユーザーがガソリン代上昇率を可変にできるようにすること(新規機能開発)は、この不確実性に対応する上で非常に有用です。
例えば、ユーザー自身が「将来はガソリン価格がもっと急騰する」と考えるなら上昇率を3~4%に設定すれば、EV導入によるガソリン代節約効果を大きめに見積もることができます。逆に「技術革新でガソリンは安くなるかもしれない」と思うなら0%近くまで下げてみれば、EVの経済メリットを保守的に評価できます。このように、上昇率を調整できることで様々な未来像に対するシミュレーションが可能になり、意思決定のリスク分析に役立つわけです。
では「初期値を1.5~2%とすることの蓋然性(もっともらしさ)」はどうでしょうか。上述のように、この範囲自体は妥当ですが、シナリオによっては不足もあり得るため、エネがえる利用者には自分の考える将来観に応じて値を積極的に変更してみることを推奨します。
サービス提供側としても、「デフォルト=2%」だけでなく将来予測の幅を解説した上で調整を促すと親切です。例えば「政府見通しに近いのは1–2%、リスクシナリオなら3%以上も選択肢」等とガイダンスがあると、ユーザーも単なるデフォルト値を鵜呑みにせず済むでしょう。
結論として、エネがえるEV・V2Hにおけるガソリン代上昇率1.5~2%というガソリン代上昇率反映機能(構想中)における初期設定は、現時点では緩やかな上昇を前提とした標準シナリオ”として適切です。しかし、本記事で見てきたとおり未来は一様ではありません。可変にできる機能を存分に活用し、悲観的・楽観的なケースもシミュレーションしてみることが重要です。それによって、EV導入やV2H投資のメリット・デメリットを多面的に捉え、将来の不確実性への耐性を高めることができるでしょう。
おわりに
ガソリン価格の過去30年の分析と、これから先2050年までの予測シナリオを包括的に解説しました。ポイントを振り返ると、ガソリン価格は様々な要因で上下し、決して一定のペースで上がり続けるわけではないということです。産油国の政策・戦争リスク・技術革新・環境政策・為替レートなど、複数のピースが組み合わさって価格という結果が現れます。
特にこれからは、脱炭素化への世界的潮流の中でガソリンという化石燃料がどのような位置付けになるかが大きな焦点です。楽観的にはクリーンエネルギーへの転換が進みエネルギー費用が下がる未来、悲観的には移行期の混乱でコストが跳ね上がる未来、現実的にはその中間かもしれません。いずれにせよ、将来を見通すには複数シナリオを考えることが重要であり、本記事がその一助となれば幸いです。
最後に、本分析はAIを活用した推定であり不確実性を伴う点を改めてご承知おきください。しかし、だからこそ可能な限り多くのファクトと理論を盛り込み、説明可能な形で予測を行いました。読者の皆様には、提示したエビデンスやシナリオを踏まえつつ、自身の感覚や業界動向も照らし合わせて未来のエネルギー戦略を考える材料としていただければと思います。ガソリン価格の行方を正しく恐れ、正しく備えることで、来るべき2050年に向けた賢い選択ができることでしょう。
(出典:資源エネルギー庁 石油製品価格調査、総務省 統計局 消費者物価指数、IEA World Energy Outlook、経済産業省 エネルギー白書、他各種資料をもとに筆者作成)
【参考文献・出典一覧】:
-
資源エネルギー庁「石油製品価格調査」週次データ(1987~2024年)
-
石油情報センター:2008年当時のガソリン価格調査結果(レスポンス記事)
-
テレビ朝日報道:「止まらないガソリン価格、2008年最高値185円→リーマン後106円への推移」
-
ロイター通信:「政府補助金でガソリン価格を170円台に抑制、円安と原油高で185円台迫る状況」(2023年8月)
-
世界経済フォーラム:「日本は2050年カーボンニュートラル、2030年までに2013年比46%削減目標」
-
ロイター通信:「日本政府、2030年代半ばまでにガソリン車新車販売禁止の方針検討(菅首相の2050年排出ゼロ宣言を受け)」
-
ロイター通信:「日本におけるEV比率見通し(BCG:2030年に新車の55%がEV)」
-
S&P Global:「IEA世界エネルギー見通し2024:2030年に石油需要ピーク、2050年には原油価格$60未満へ低下との予測」
-
米国EIA「Annual Energy Outlook 2025」:2050年の原油価格予測(高価格ケース$155/barrel、低価格ケース$47/barrel)
-
JETRO海外ニュース:「ホルムズ海峡を通過する原油は日量2,000万バレル(世界消費の約20%)で世界最大のチョークポイント」
コメント