農業ハウスのヒートポンプ・太陽光・蓄電池は元が取れない?重油価格×品目×規模の81ケースを実試算【2026年11月最新単価】

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国際航業株式会社カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG

樋口 悟(著者情報はこちら )

樋口 悟(Satoru Higuchi)。国際航業株式会社 カーボンニュートラル推進部 デジタルエネルギーグループで「エネがえる」の事業開発を担当。住宅・産業用太陽光、蓄電池、EV・V2H、PPA、電力料金・補助金の経済効果を扱い、SaaS・API・BPOによる比較提案・導入判断を支援しています。「太陽光・蓄電池導入意思決定白書2026」の監修、独自調査、官公庁・自治体の試算支援、APIを活用したサービス開発・協業にも取り組みます。執筆・更新では一次情報と試算条件の明示を重視し、公表値と独自の推計・仮定を区別します。 詳しいプロフィール・活動実績・参照資料 / 監修した白書

顧客の声・公開登壇記録
・共伸興建・市川様の公開インタビュー(2023年1月11日):「樋口さんが電話に結構すぐ出てくれる」「業界の知見がある」。操作に加え、提案方法や試算ロジックへの相談対応をご評価いただきました。同インタビューでは、利用者増加時にも同じ品質のサポートを求める声をいただいています。
・東京都・東京都環境公社のWEBシンポジウム(2024年3月15日):「太陽光発電と都市の可能性」の講演者として、樋口悟の氏名・所属・略歴が主催者の公式ページに掲載されています。
協業や資料のご案内では「迅速なご対応とご送付、ありがとうございます!」、AIサポートによる操作案内では「ありがとうございます。助かりました。」などのお客様の声をいただいています。
公開インタビュー以外のお客様の声は、企業名・氏名を省略して紹介しています。AIサポートへの声はサービスへのご感想です。

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農業ハウスのヒートポンプ・太陽光・蓄電池は元が取れない?ヒートポンプは81ケース中56で15年以内に回収、作業場の太陽光の自家消費率は約3割、営農型太陽光は売電だけなら約16〜22円/kWhが必要
農業ハウスのヒートポンプ・太陽光・蓄電池は元が取れない?ヒートポンプは81ケース中56で15年以内に回収、作業場の太陽光の自家消費率は約3割、営農型太陽光は売電だけなら約16〜22円/kWhが必要

結論から言います。農業ハウスの暖房をヒートポンプ(重油の暖房機と併用するハイブリッド加温)に替える投資は、「設定温度が高い品目」×「燃料が高い時期」×「低圧の契約に収まる台数」のとき早く回収できます。関東(宇都宮)・九州(熊本)のいちご(夜温8℃)・トマト(12℃)・バラ(18℃)を10a〜1haの4規模で、北海道(札幌)の1haを加えた81ケース(A重油100・120・140円/L、電気・燃料とも年2%上昇、補助なし、税込)で試算すると、15年以内に回収できたのは81ケース中56でした(定格COP4.0・霜取りによる効率低下なし・設備費240万円/20馬力の場合。霜取りを含め、効率が年平均約2.7〜3.2・設備費8万円/kW(暖房能力)の厳しい条件では20ケースに減ります)。品目別ではバラ26/27、トマト21/27、いちご9/27です。一方、作業場の屋根の太陽光は、ヒートポンプを入れても自家消費率がほとんど上がりません(10aで約33%)。暖房は夜、太陽光は昼だからです。営農型太陽光は、売電だけで成り立たせるには1kWhあたり約16〜22円が必要でした。

3つの答え

  1. ヒートポンプは品目と燃料価格で答えが分かれる。関東・10a・A重油120円/Lでは、バラは回収約3.4年、トマトは約6.5年でした。いちごは15年で回収できません(15年の正味は約−9万円)。九州のいちごは10a・30aとも、重油140円でも回収しませんでした。元が取れるA重油価格の目安(15年の正味がゼロ)は、バラ約70〜115円、トマト約80〜135円、いちご約95〜240円です。農業物価統計のA重油価格は2026年3月に141.4円/Lでした。霜取りによる効率の低下を含め、効率と設備費を厳しく見ると、元が取れるA重油価格の中央値は約105円から約144円に上がります(図13)。
  2. 台数は「低圧の契約に収まる範囲」が基本。1haで低圧の上限内に収めた40馬力(暖房能力112kW)は18ケース中17で回収し、回収年数の中央値は約4.0年でした(回収しない1ケースを15年超として数えた値)。200馬力まで増やして高圧で受電すると、冬の夜の最大需要で契約電力(実量制)が決まり、基本料金が1年中かかります。受電設備の費用(1,000万円と仮定)も加わり、回収は27ケース中13にとどまりました。ただし燃料を多く使うバラは、大きく入れたほうが15年の正味は大きくなります。
  3. 太陽光は「昼に電気を使う施設」から。蓄電池は電気代だけでは回収しない。作業場の屋根の太陽光(10a・10kW)の自家消費率は約33%で、ヒートポンプを入れてもほぼ同じでした。昼の余りを夜のヒートポンプに回す蓄電池の価値は1kWhあたり約4.5万〜9.1万円で、想定価格15.4万円/kWh(税込)の約3〜6割です。同じ30kWの太陽光でも、換気を通年回す採卵鶏の鶏舎は自家消費率約90%で、回収約11年でした(需要は仮定)。

この記事で分かること(数値の要点)

  • 10aあたりのA重油(重油の暖房機だけの場合):関東はいちご約6.4kL・トマト約11.9kL・バラ約23.4kL、九州は約2.8kL・6.8kL・16.5kL、北海道は約17.3kL・25.6kL・41.6kLでした(2016〜2023年の気象で計算した平均)。
  • エネルギー費の大半は燃料:10a・A重油120円/Lでは、暖房のA重油がエネルギー費の約69〜94%を占めます。加温以外の電気(循環扇・換気・かん水・制御)は年約15万〜17万円でした(年5,000kWhの仮定)。
  • ハイブリッドでヒートポンプが受け持つ熱:10a・20馬力では暖房の熱の約70〜99%です。年間の平均の効率(熱÷電気)は関東・九州で約3.6〜4.0、北海道で約3.2〜3.3でした(定格COP4.0の仮定。霜取り運転による効率の低下は含めていません。寒冷時は実際の効率が1割前後低くなりえます)。
  • 補助と設備費:設備費の1/2の補助があると、15年以内の回収は81ケース中56→61になります。設備費が3割高いと48です。霜取りを含め、効率と設備費を厳しく見た場合は81ケース中20〜49です(図13)。
  • 効率が2割低い(定格COP3.2)と、関東・トマト・30aの15年の正味は約1,154万円→約349万円に縮みました。重油価格に次いで結論を動かす要素です。
  • CO2:10a・30aのハイブリッドで暖房のCO2は約36〜60%減ります。低圧に収めた1ha・40馬力では約11〜27%減にとどまり、「早く回収する設計」と「CO2を大きく減らす設計」は一致しません。
  • 営農型太陽光:2024年4月から一時転用の許可基準が農地法施行規則に定められました。2026年4月の農林水産省の検討会では、遮光率30%未満などを求める新しい制度の案が示されています(施行時期は未定)。

本記事は、エネがえるの試算シリーズと同じ方法(時間ごとの独立計算モデル、前提と出典の全公開)で、農業のエネルギー費を扱ったものです。中心は施設園芸のハウスの暖房(加温)です。作業場・選果場・畜舎・ライスセンターの太陽光と、営農型太陽光(ソーラーシェアリング)は、比較のための補助的な試算として扱います。業種ごとのエネルギー費の全体像は業種別のエネルギー費マップ、工場のヒートポンプは24時間稼働の工場の試算で扱っています。

なぜ今、ハウスの暖房を「電気とセット」で試算するのか

施設園芸は、農業の中でもエネルギー費の比重が特に高い業態です。農林水産省の資料では、農業経営費に占める動力光熱費の割合は施設ピーマン28%、施設温州ミカン36%、施設ばら28%で、稲作の7%を大きく上回ります(「施設園芸をめぐる情勢」令和8年5月、営農類型別経営統計R5・R6)。本記事の中心品目の施設大玉トマトは、部門経営費の11.7%が動力光熱費です(1経営体平均・作付約47aで約212万円、営農類型別経営統計R5)。全国の園芸用施設37,278ha(令和6年)のうち、加温設備がある施設は16,162ha(約4割)です。

2026年は、判断を迫る動きが重なりました(図11・図5)。

  • 燃料価格:同じ資料では、施設園芸に使うA重油の価格は2026年3月に141.4円/Lでした(農業物価統計調査)。加温期間(11〜4月)の平均も直近は約120円/Lです。燃料価格の高騰に備える国のセーフティネット(施設園芸セーフティネット構築事業)は、令和8事業年度はA重油の全国平均価格が100.2円/Lを超えると補塡金が出る仕組みです。農業者と国が1対1で積み立てます(山梨県 令和8事業年度の公募、茨城県 令和8事業年度)。補塡は燃料価格の高騰分の一部であり、燃料の使用量そのものは減りません。加入の要件として、10aあたりの燃料使用量を15%以上減らす計画が求められます。
  • 国の目標:みどりの食料システム戦略は、2030年に「加温面積に占めるハイブリッド型園芸施設等の割合50%」、2050年に「化石燃料を使用しない施設への完全移行」を目標としています(農林水産省 施設園芸における化石燃料の使用量削減)。
  • 営農型太陽光のルール:2024年4月1日から、一時転用の許可基準が農地法施行規則に定められ、ガイドラインが施行されました。2026年4月には、農林水産省の「望ましい営農型太陽光発電に関する検討会」で、農山漁村再エネ法の計画認定と組み合わせる新しい制度の案が示されています(後述)。

経営課題からエネルギー費の打ち手までを4段で整理する

エネがえるの業種別のエネルギー費マップと同じ4段(経営課題→エネルギー費の構造→打ち手の順番→本試算の位置づけ)で、農業を整理します。

① 経営課題:燃料は値上がりしても、売値に上乗せしにくい

野菜・花きの売値は市場や取引先との関係で決まり、燃料が上がった分をすぐ価格に乗せることはできません。施設ばら(10aあたり農業経営費約382万円、粗収益約503万円)のように所得が経営費の3分の1程度の経営では、燃料の値上がりがそのまま所得を削ります(同資料、営農類型別経営統計)。加えて、人手不足で省力化への投資も必要で、施設の老朽化、気候変動による夏の高温や災害(停電・浸水)への備えも重なります。畜産(換気・冷却・搾乳)、ライスセンター(乾燥・調製)、選果場(予冷・選別)は、燃料より電気の比重が高い業態です。

② エネルギー費の構造:燃料(熱)と電気を一つの財布で見る

ハウスのエネルギー費は、暖房のA重油(灯油・LPガスの場合もある)が大半です(図1)。電気は循環扇・換気扇・かん水ポンプ・環境制御などで、量は多くありません。ヒートポンプに替えると、燃料代が減る代わりに電気代が増えます。電気代は使った量(電力量料金)と、契約電力で決まる基本料金の2つでできている点が要注意です。小さな施設の低圧電力では契約電力は機器の容量で決まり、暖房を使わない夏も含めて毎月基本料金がかかります。低圧で受電できる契約は50kW未満までで、それを超えると高圧で受電する必要があり、受電設備(キュービクル)が要ります(静岡県の指針も、ヒートポンプの台数が多くなると高圧の契約への変更と受電設備の費用が必要になると注意しています)。

10aあたりのエネルギー費(重油の暖房機だけ、A重油120円/L、税込)。関東:いちご約94万円(重油82%)、トマト約160万円(89%)、バラ約298万円(94%)。九州:いちご約49万円(69%)、トマト約97万円(84%)、バラ約213万円(93%)。加温以外の電気は年約15万〜17万円
図1 ハウスのエネルギー費は、ほとんどが暖房の燃料です。設定温度が高い品目ほど燃料の比重が増えます。

③ 打ち手の順番:熱を減らしてから、熱源を替え、電気は最後に作る

業種別マップの基本の順番(運用・契約→省エネ→電化・熱転換→創エネ→蓄エネ・蓄熱→調達→モビリティ)を、燃料費が大半を占める施設園芸向けに読み替えると図2になります。まず設定温度と変温管理、多層カーテンや被覆の更新で熱そのものを減らし、次にヒートポンプで熱源を替えます。太陽光や蓄電池はその後です。暖房の熱が減れば、必要なヒートポンプの台数も減り、基本料金と設備費も減るためです。

施設園芸の打ち手の順番。①運用・契約(設定温度と変温管理・契約の見直し、投資ほぼゼロ)、②保温・省エネ(多層カーテン・被覆の更新・すき間対策、燃料が直接減る)、③熱の電化(ヒートポンプのハイブリッド加温、低圧に収める、本記事の中心)、④創エネ(作業場・選果場・畜舎の屋根の太陽光、昼の電気が多い施設から)、⑤蓄エネ・蓄熱(蓄電池・蓄熱槽・停電対策、電気代だけでは回収しにくい)、⑥調達(再エネメニュー・J-クレジット、CO2の上積み)、⑦モビリティ(軽トラ・運搬車の電動化、充電は夜間に)
図2 施設園芸の打ち手の順番。下段は本記事の試算の結果と注意点です。

④ 本試算の位置づけ

本記事は③の「熱の電化(ヒートポンプ)」を中心に、④創エネ(太陽光)と⑤蓄エネ(蓄電池)を時間ごとのモデルで数値化したものです。①②の保温・省エネの効果は、品目ごとの温室の放熱の条件に含めて固定しており(一層カーテン相当)、効果そのものは試算していません。⑥⑦は試算に含めていません。工場・ホテル・病院のヒートポンプ(給湯・蒸気)は、それぞれ工場・ホテル・旅館・病院・介護施設の試算で扱っています。

検証の方法:2地点×3品目×4規模+北海道×3品目、A重油3水準=81ケース

  • 地点と気象:関東(宇都宮)、九州(熊本)、北海道(札幌、1haの高圧のみ)。欧州委員会のPVGIS(ERA5)の2016〜2023年の時間ごとの気温・日射・発電量を使い、8年それぞれで計算して平均しました。寒波の夜をならしてしまわないためです。
  • 品目(暖房の設定温度と期間):いちご(8℃、10〜4月)、トマト(12℃、10〜5月)、バラ(18℃、通年)。
  • 温室の暖房の熱:1時間ごとに「放熱(10aあたり5.5kW/℃×(設定温度−外気温))−日射の取り込み」を計算しました。放熱の条件は、静岡県の「農業における省エネルギー技術対策指針」の試算条件(床1,000m²・表面積1,650m²・放熱係数3.5W/m²K=一層カーテン)を参考にしています。
  • 規模とヒートポンプの台数:10a(20馬力・暖房能力56kW、静岡県の指針の例)、30a(50馬力・140kW)、1ha(40馬力・112kW、低圧の上限内)、1ha(200馬力・560kW、高圧で受電)。重油の暖房機は残し、ヒートポンプが出せない分を補います(ハイブリッド加温)。
  • ヒートポンプの性能:定格COP4.0(外気7℃)。外気温が1℃下がるごとに約0.09下がり、設定温度が高いほど下がる仮定です。暖房能力も寒いほど落ちます(−5℃で約8割)。
  • 燃料と電気:A重油100・120・140円/L(税込)、発熱量38.9MJ/L、重油の暖房機の効率85%。電気は2026年11月以降の各社の公表単価(12月分の燃料費等調整、再エネ賦課金4.18円/kWh)。消費税は、免税事業者・簡易課税の農業者が多いことからすべて税込で比較しました(本則課税の事業者でも、ほぼすべての項目が1.1倍になるため回収年数はほとんど変わりません)。
  • 評価:ヒートポンプは15年、太陽光は20年。電気・燃料とも年2%上昇を基本とし、片方だけ上がる場合を感度で確かめました。

合計は、関東・九州(2地点×3品目×4規模×A重油3水準=72ケース)と北海道(3品目×A重油3水準=9ケース)の81ケースです。上昇率の組み合わせ3通りを含めると243ケースになります。北海道の冬の加温栽培は品目・作型が限られるため、寒冷地の目安として扱ってください。

何で決まるのか:熱1kWhの値段は「重油約11〜15円」対「ヒートポンプ約6〜7円+基本料金」

A重油120円/L・暖房機の効率85%なら、暖房の熱1kWhあたりの燃料代は約13.1円です(100円で約10.9円、140円で約15.2円)。ヒートポンプは、関東の低圧電力(電力量料金・燃料費等調整・再エネ賦課金の合計で冬は約25円/kWh、税込)を年間の平均の効率約3.7(霜取りによる低下を含めない値)で割ると、熱1kWhあたり約6.8円です。差額の約6円/kWhが、ヒートポンプの「稼ぐ力」です。

ただし、ヒートポンプには使わない月も毎月かかる基本料金が付きます。関東の低圧電力では、10a・20馬力(定格の消費電力14kWと仮定)で年約19万円です。暖房の熱が少ないいちごや暖かい九州では、この固定費を燃料の節約で取り戻せません。これが、品目と地域で答えが分かれる理由です。

項目(関東・低圧電力、税込)値メモ
A重油の熱1kWhあたり約10.9/13.1/15.2円100/120/140円/L、効率85%
ヒートポンプの熱1kWhあたり(電力量だけ)約6.8円冬の電力量料金等 約25円÷年間の平均の効率約3.7(霜取りを含めない)
ヒートポンプの基本料金(10a・20馬力)年約19万円契約電力14kW×1,190.83円×力率割引0.95×12か月
九州の低圧電力の電力量料金等(冬)約21.8円/kWh関東より安いが、暖房の熱が少ないため差額も小さい

結果①:同じ10aでも、燃料の量は品目と地域で約15倍違う

10aあたりのA重油量(重油の暖房機だけの場合)。関東:いちご6.4kL、トマト11.9kL、バラ23.4kL。九州:2.8kL、6.8kL、16.5kL。北海道:17.3kL、25.6kL、41.6kL。トマトの月別の暖房熱量は1月が最大で、北海道は約55MWh、関東約30MWh、九州約19MWh
図3 10aあたりのA重油量と、トマトの月別の暖房熱量。設定温度と外気温の差の積み重ねで燃料が決まります。

重油の暖房機だけで暖めた場合、10aあたりのA重油は九州のいちごの約2.8kLから北海道のバラの約41.6kLまで、約15倍の開きがありました。関東・九州では、バラはいちごの約4〜6倍です。燃料の量が多いほど、熱源を替える効果も大きくなります。逆に、燃料が少ないいちごや九州では、ヒートポンプの基本料金と設備費を取り戻すのに時間がかかります。

本試算の燃料の量は、温室の放熱と日射を単純化した計算によるもので、実際の施設の被覆・カーテンの枚数・すき間・作型で大きく変わります。自分のハウスの判断には、実際の燃料の購入量(月別)を使ってください。

結果②:ヒートポンプは81ケース中56で15年以内に回収。品目と燃料価格で分かれる

ヒートポンプ(ハイブリッド加温)の回収年数(関東・九州、品目×規模×A重油価格)。関東のバラは10aで約2.3〜6.2年、トマトは10aで約4.2〜13.7年、いちごは10aで140円のときだけ約8.8年。九州のいちごは10a・30aではどの価格でも回収せず。1ha・200馬力(高圧)はいちごで回収せず
図4 ヒートポンプの追加投資の回収年数(15年以内、電気・燃料とも年2%上昇、補助なし、税込)。

ハイブリッド加温の追加投資(ヒートポンプ、1ha・200馬力は受電設備を含む)が15年以内に回収できたのは81ケース中56、10年以内は46でした(基準条件:定格COP4.0、霜取りによる効率低下なし、設備費4.3万円/kW)。回収しないケースを「15年超」として数えた81ケース全体の回収年数の中央値は約7.9年です。

この「56」は、ヒートポンプの効率と設備費の置き方で大きく動きます。基準は定格COP4.0(外気7℃)で、霜取り運転による効率の低下を含めず、設備費は静岡県の指針の例(20馬力240万円、暖房能力1kWあたり約4.3万円)です。一方、熊本県の試験(農業研究成果情報No.1041、2023年6月)では、ヒートポンプ1台の導入経費(工事費込み)は床置き型4馬力で約73万円、天吊ダクト型5馬力で約122万円でした。暖房能力をそれぞれ約11kW・約14kWとみなすと(仮定)、1kWあたり約6.5万〜8.7万円にあたります。そこで、霜取り(外気2℃以下で効率×0.9)を含めたうえで、定格COP3.2・3.6・4.0×設備費4.3・6・8万円/kWの9通りで81ケースを再計算しました(電気・燃料とも年2%上昇、補助なし、税込)。

ヒートポンプの効率×設備費の感度。霜取り込みで15年以内の回収は、定格COP4.0:4.3万円/kWで49・6万円で45・8万円で38、COP3.6:43・34・28、COP3.2:27・26・20(81ケース中)。元が取れるA重油価格の中央値は約105円〜約144円
図13 ヒートポンプの効率と設備費で、15年以内に回収できるケースは81中20〜49に動きます(霜取り込み、電気・燃料とも年2%上昇、補助なし、税込)。

15年以内の回収は、霜取りを含めても効率と設備費が基準どおりなら49、最も厳しい組み合わせ(定格COP3.2・設備費8万円/kW、年間の平均の効率は関東・九州で約2.7〜3.2)では20でした。元が取れるA重油価格の中央値は約105円から約144円に上がります。2026年3月の141.4円/Lはこの範囲の上端に近く、見積の単価(1kWあたり)と、寒い夜の実際の効率(霜取りの頻度)を確かめてから判断することが大切です。

  • 品目:バラ26/27、トマト21/27、いちご9/27。設定温度が高いほど暖房の時間と熱が増え、ヒートポンプがよく働きます。
  • 燃料価格:A重油100円で27ケース中14、120円で19、140円で23。
  • 規模:10a・20馬力18ケース中12、30a・50馬力14、1ha・40馬力(低圧)17、1ha・200馬力(高圧)は北海道を含む27ケース中13。
  • 北海道(1ha・200馬力):A重油100円ではどの品目も回収せず、120円ではバラだけが約9.1年で回収しました(トマトは15年の正味が約−1,166万円)。140円ではいちご約10.1年、トマト約6.1年、バラ約3.5年で回収します。寒いほど暖房の熱は増えますが、ヒートポンプの効率が下がり(年間の平均約3.2〜3.3)、冬の夜の最大需要で高圧の基本料金が膨らむため、燃料価格への感応度が最も大きい地域です。
地域品目規模・台数A重油(重油だけの場合)ヒートポンプが受け持つ熱回収(100円)回収(120円)回収(140円)15年の正味(120円)
関東いちご(8℃)10a・20馬力6.4kL95%回収せず回収せず約8.8年−9万円
関東いちご(8℃)30a・50馬力19.2kL88%回収せず約12.2年約7.3年166万円
関東いちご(8℃)1ha・40馬力(低圧)64.0kL31%約12.1年約6.1年約4.1年818万円
関東いちご(8℃)1ha・200馬力(高圧)64.0kL95%回収せず回収せず回収せず−3,566万円
関東トマト(12℃)10a・20馬力11.9kL84%約13.7年約6.5年約4.2年372万円
関東トマト(12℃)30a・50馬力35.7kL76%約11.5年約5.7年約3.8年1,154万円
関東トマト(12℃)1ha・40馬力(低圧)119.1kL24%約6.7年約3.7年約2.6年1,690万円
関東トマト(12℃)1ha・200馬力(高圧)119.1kL84%回収せず約14.6年約7.9年120万円
関東バラ(18℃)10a・20馬力23.4kL70%約6.2年約3.4年約2.3年962万円
関東バラ(18℃)30a・50馬力70.2kL62%約5.6年約3.1年約2.2年2,668万円
関東バラ(18℃)1ha・40馬力(低圧)234.0kL18%約3.9年約2.3年約1.6年3,063万円
関東バラ(18℃)1ha・200馬力(高圧)234.0kL70%約14.6年約6.1年約3.9年5,768万円
九州いちご(8℃)10a・20馬力2.8kL99%回収せず回収せず回収せず−277万円
九州いちご(8℃)30a・50馬力8.5kL98%回収せず回収せず回収せず−539万円
九州いちご(8℃)1ha・40馬力(低圧)28.5kL45%回収せず約9.6年約6.4年316万円
九州いちご(8℃)1ha・200馬力(高圧)28.5kL99%回収せず回収せず回収せず−5,863万円
九州トマト(12℃)10a・20馬力6.8kL95%回収せず約9.7年約6.4年155万円
九州トマト(12℃)30a・50馬力20.5kL89%約14.8年約7.9年約5.3年642万円
九州トマト(12℃)1ha・40馬力(低圧)68.4kL32%約6.8年約4.2年約3.1年1,439万円
九州トマト(12℃)1ha・200馬力(高圧)68.4kL95%回収せず回収せず約13.4年−1,779万円
九州バラ(18℃)10a・20馬力16.5kL82%約5.5年約3.4年約2.5年958万円
九州バラ(18℃)30a・50馬力49.5kL73%約4.9年約3.1年約2.2年2,728万円
九州バラ(18℃)1ha・40馬力(低圧)165.1kL23%約3.2年約2.1年約1.6年3,362万円
九州バラ(18℃)1ha・200馬力(高圧)165.1kL82%約11.5年約6.1年約4.1年5,879万円
北海道いちご(8℃)1ha・200馬力(高圧)173.5kL68%回収せず回収せず約10.1年−2,712万円
北海道トマト(12℃)1ha・200馬力(高圧)256.0kL60%回収せず回収せず約6.1年−1,166万円
北海道バラ(18℃)1ha・200馬力(高圧)415.8kL52%回収せず約9.1年約3.5年1,839万円

北海道の1ha・200馬力は、既に高圧で受電していると仮定し、受電設備の費用を含めていません。表の「ヒートポンプが受け持つ熱」は、暖房の熱のうちヒートポンプが出した割合です。10a・20馬力ではいちご・トマトで約8〜10割をまかなえる一方、1ha・40馬力では約2〜5割にとどまります。それでも回収が早いのは、少ない台数を冬じゅうほぼ定格で回し続けるため、設備費と基本料金あたりの節約が大きいからです。

15年の正味がゼロになるA重油価格。九州・バラ・1ha40馬力 約69円から、九州・いちご・1ha200馬力 約240円まで。セーフティネットの補塡基準100.2円、直近の加温期の平均約120円、2026年3月141.4円の線を表示
図5 ヒートポンプが元を取れるA重油価格の目安。この価格を上回るとハイブリッドの15年の正味がプラスになります。

3つの重油価格の結果から求めた「元が取れる重油価格」は、バラ約70〜115円、トマト約80〜135円、いちご約95〜240円でした(電気・燃料とも年2%上昇)。施設園芸セーフティネットの補塡基準(100.2円/L)を下回るのは、バラの多くと、関東・九州のトマト・いちごの一部です。「補塡が出る価格帯なら、ヒートポンプはすでに元が取れる」組み合わせが多いことになります。補塡は燃料が高い年の手当てで、使用量は減らないため、セーフティネットとヒートポンプは「どちらか」ではなく組み合わせて使うものです。

結果③:1haは「低圧に収まる台数で長く回す」が基本。燃料の多いバラは例外

1haの15年の正味(A重油120円/L)。関東:いちご 40馬力818万円・200馬力−3,566万円、トマト 1,690万円・120万円、バラ 3,063万円・5,768万円。九州:いちご 316万円・−5,863万円、トマト 1,439万円・−1,779万円、バラ 3,362万円・5,879万円
図6 1haのハイブリッド加温。40馬力(低圧に収める)と200馬力(高圧+受電設備)の15年の正味。

1haで200馬力(暖房能力560kW)まで入れると、ヒートポンプが受け持つ熱は関東・九州で約7〜10割に増えますが、冬の夜に消費電力が約140〜220kW(北海道を含む)に達し、高圧で受電する必要が出ます。高圧の基本料金は過去1年の最大需要(30分平均)で決まる実量制のため、冬の数日の寒い夜が、夏を含む1年分の基本料金を決めます。受電設備の費用(1,000万円と仮定)も加わり、いちごとトマトでは40馬力(低圧)のほうが15年の正味が大きくなりました。

一方、通年加温で燃料の多いバラは、200馬力のほうが15年の正味が大きくなりました(関東約5,768万円対約3,063万円、A重油120円)。台数の正解は品目の燃料の量で変わるため、1台ずつ増やしたときの節約の増え方(限界の効果)を、基本料金の段差と合わせて確かめることが大切です。なお、CO2の削減は台数の多い200馬力のほうが大きく(関東・トマトで約50%減対約14%減)、早く回収する設計とCO2を大きく減らす設計は一致しません。

結果④:太陽光は、ヒートポンプを入れても自家消費が増えない

関東・トマト・10aの冬の1週間。暖房の熱は毎晩17時頃から翌朝8時頃まで約50〜90kW。ヒートポンプは寒い夜ほど出力が落ち(約46〜52kW)、重油の暖房機が残りを補う。屋根の太陽光10kWの発電は昼だけで、暖房の時間帯と重ならない
図7 暖房は夜、太陽光は昼。ヒートポンプは寒い夜ほど出力が落ち、重油の暖房機が残りを補います。

ヒートポンプで電気の使用量が増えると、太陽光の電気も使い切れそうに見えます。しかし暖房はほとんどが夜で、昼は日射でハウスが暖まるため暖房がほぼ止まります(図7)。作業場の屋根に載せた太陽光(10a・10kW、30a・20kW、1ha・50kW、関東・トマト)の自家消費率は、ヒートポンプなしで約33%・46%・57%、ありでもほぼ同じでした。ハウスの昼の電気(循環扇・換気・かん水)は少なく、余りを売らない前提では、10a・30aの太陽光は20年で回収せず、1haでも関東・北海道で約15〜19年かかり、九州ではほとんどが20年で回収しませんでした。余りを8円/kWhで売れる場合でも、1haで約12〜17年、関東の30aで約18年です。

同じ30kWの太陽光(関東・低圧電力)の施設タイプ別の自家消費率と20年の正味。採卵鶏の鶏舎 90%・約668万円、選果場・予冷庫 51%・約−53万円、酪農の牛舎 45%・約−182万円、ハウス+ヒートポンプ 38%・約−317万円、ハウス 36%・約−353万円、ライスセンター・乾燥調製 18%・約−676万円
図8 同じ30kWの太陽光でも、昼に電気を使い続ける施設でなければ元が取りにくい(需要はすべて仮定)。

農業の施設のうち、太陽光と相性がよいのは昼間に電気を通年使う施設です。同じ30kWの太陽光を、仮定した需要の形で比べると、換気を通年回す採卵鶏の鶏舎(年100MWh)は自家消費率約90%で約11年で回収しました。選果場・予冷庫(6〜11月)は約51%、酪農の牛舎(搾乳・冷却・換気、年50MWh)は約45%で、20年でわずかに届きません。ライスセンター(9〜10月に集中)は約18%で、季節が限られる施設に太陽光を合わせると大半が余ります。太陽光の容量は、昼の需要の小さい季節に合わせて小さめに決めるのが基本です。

施設(30kW、関東・低圧電力、需要は仮定)年間の使用量自家消費率施設の電気のうち太陽光でまかなえる割合20年の正味
採卵鶏の鶏舎(換気が通年)100MWh約90%約29%約668万円(回収約11.0年)
選果場・予冷庫(6〜11月)40MWh約51%約41%約−53万円
酪農の牛舎(搾乳・冷却・換気)50MWh約45%約28%約−182万円
ハウス+ヒートポンプ(トマト30a)82MWh約38%約15%約−317万円
ハウス(加温以外の電気、30a)15MWh約36%約75%約−353万円
ライスセンター・乾燥調製(9〜10月)30MWh約18%約19%約−676万円

結果⑤:蓄電池は、昼の余りを夜のヒートポンプに回しても価格の約3〜6割の価値

作業場の屋根の太陽光の自家消費率(関東・トマト)は、10a・10kWで33%、30a・20kWで46%、1ha・50kWで57%、ヒートポンプの有無でほぼ同じ。蓄電池(昼の余りをためて夜に使う)の15年で回収できる価格は、ヒートポンプなしで約5.1〜8.1万円/kWh、ありで約8.0〜8.5万円/kWhで、想定価格15.4万円/kWhを下回る
図9 ハウスの太陽光の自家消費率と、蓄電池の損益分岐(関東・トマト)。

太陽光1kWあたり1kWhの蓄電池で昼の余りをため、夜(ヒートポンプがあればその電気)に使うと、15年で回収できる蓄電池の価格は、全54ケースで1kWhあたり約4.5万〜9.1万円でした。想定価格15.4万円/kWh(税込、税抜14万円)の約3〜6割で、電気代の削減だけで回収したケースは54ケース中0です。ヒートポンプがあると夜の使い道が増え、価値は少し上がります(関東・トマト・10aで約5.1万→約8.0万円/kWh)。小さな施設の低圧電力では、契約電力が機器の容量で決まるため、蓄電池で最大需要を下げても基本料金は下がりません。

何が変わると結論が変わるか

関東・トマト・30a・A重油120円の15年の正味(基準約1,154万円)の感度。A重油100円で約218万円、140円で約2,090万円。電気だけ年2%上昇で約409万円、重油だけ上昇で約1,648万円。ヒートポンプの効率が2割低いと約349万円。設備費+30%で約933万円、補助1/2で約1,454万円
図10 回収を最も動かすのは重油価格とヒートポンプの効率です(関東・トマト・30a)。
変わる条件影響(関東・トマト・30a、A重油120円、15年の正味)81ケース全体への影響
A重油価格(100円⇔140円)約218万円⇔約2,090万円(基準約1,154万円)15年以内の回収は100円で27中14、140円で27中23
電気と燃料の上がり方電気だけ年2%上昇(重油は横ばい)で約409万円、重油だけ上昇で約1,648万円電気だけ上昇で81中42、重油だけ上昇で81中62
ヒートポンプの効率(定格COP4.0→3.2)約1,154万円→約349万円(回収約5.7年→約10.1年)関東・九州の低圧18ケース(120円)で回収は15→14、回収年数は大きく延びる
設備費(+30%)/補助(設備費の1/2)約933万円/約1,454万円+30%で81中48、補助1/2で81中61
台数(1haの40馬力→200馬力)結果③のとおり、いちご・トマトは不利、バラは有利高圧化で基本料金と受電設備が加わる

実際の判断では、ヒートポンプの効率(同じ機種でも外気温・霜取り・設定温度で変わる)と自分のハウスの燃料の量が、カタログや平均値と最もずれやすい部分です。メーカーの性能表と、過去の燃料購入量をそろえて試算してください。

営農型太陽光(ソーラーシェアリング):売電だけなら約16〜22円/kWhが必要。ルールは農業優先へ

営農型太陽光(10aあたり40kW、関東)の20年の正味。設備費22万円/kWなら損益分岐の売電単価は約16.4円、27.5万円で約19.1円、33万円で約21.9円。右はルールの変化:2013年 通知で運用開始、2024年4月 農地法施行規則に一時転用の許可基準(原則3年以内、担い手の営農・遊休農地・第2種/第3種農地は10年以内、単収おおむね2割以上減らさない)、2026年4月 検討会で新制度案(遮光率30%未満、最低地上高概ね3m・支柱間隔概ね4m、50万円以上の販売実績など)
図11 営農型太陽光の発電事業としての損得と、ルールの変化。

農地に支柱を立てて上に太陽光を載せる営農型太陽光は、支柱部分について農地の一時転用許可が必要です。2024年4月1日から、それまで通知で定めていた許可基準が農地法施行規則に定められ、ガイドラインが施行されました。一時転用の期間は通常3年以内で、担い手が下部の農地で営農する場合、遊休農地を活用する場合、第2種・第3種農地の場合は10年以内です。下部の農地では、地域の平均的な単収と比べておおむね2割以上減収しないことなどが求められ、毎年の栽培実績と収支の報告が必要です(農林水産省 農地転用許可制度(営農型)、同「営農型太陽光発電設備について(令和6年4月改訂版)」)。

2026年4月の「望ましい営農型太陽光発電に関する検討会」では、さらに遮光率30%未満、最低地上高おおむね3m以上・支柱の間隔おおむね4m以上、栽培品目について50万円以上の生産・販売実績などを基準とし、農山漁村再エネ法の設備整備計画の認定と組み合わせる新しい制度の案が示されました(農林水産省 検討会資料(令和8年4月))。同資料によれば、令和5年度末で存続する設備の24%(5,167件中1,221件)で下部の農地の営農に支障があったとされています。新制度の施行時期は資料では示されていません。

発電事業としての損得を、10aあたり40kW(関東の発電、1kWあたり年約1,060kWh)で試算すると、20年でちょうど元が取れる売電単価は、設備費1kWあたり22万円で約16.4円、27.5万円で約19.1円、33万円で約21.9円でした(保守費・パワコン交換を含み、作物の収入と減収、地代・営農者への利益還元は含まない、いずれも仮定)。支柱が高く間隔が広い設計ほど設備費は上がりやすく、市場価格に近い単価での売電だけでは成り立ちにくいのが現状です。発電した電気を農業施設や近隣の需要家で使う(自家消費・PPA)設計か、補助の活用が前提になります。FIT/FIPの区分と単価は年度ごとに変わるため、案件の時期に合わせて確認してください。

停電対策(BCP):重油の暖房機は少ない電気で動く。ヒートポンプだけにしない

冬の夜の停電は、暖房が止まって作物が傷む直接の損害につながります。重油の温風暖房機は燃料で熱を出し、電気は燃焼の制御と送風に使うだけです。本試算では10aあたり約2kW(1台約1kW×2台と仮定)とすると、使える容量9kWh・出力5kWの蓄電池で約4.5時間動かせる計算です。これに対し、10a・20馬力のヒートポンプは定格で約14kWの電気が要り、同じ蓄電池では出力が足りず動かせません。

ハイブリッド加温で重油の暖房機を残す意味は、寒い夜のピークを補うことに加え、停電時の暖房を小さな電源で守れることにあります。長時間の停電には、発電機と燃料の備蓄が現実的です。蓄電池や発電機から暖房機に電気を送るには、切り替えの配線と機器が必要で、多くは無停電ではありません。暖房機の制御盤や環境制御のコンピューターなど、瞬時の停電で止めたくない機器はUPS(無停電電源装置)で別に守ってください。必要な電気の量は機種ごとに異なるため、銘板と取扱説明書で確認します。

反実仮想:何もしない15年と比べると

関東・トマト・30a・A重油120円/Lの暖房の累計費用。重油の暖房機だけ(何もしない)は15年で約7,413万円、ヒートポンプのハイブリッド(設備費600万円を含む)は約6,259万円で、約1,154万円少ない。暖房のCO2は年約98tから約54tへ約45%減
図12 何もしない15年と比べた暖房の累計費用とCO2(関東・トマト・30a)。

関東・トマト・30a・A重油120円/Lで「何もしない(重油の暖房機だけ)」を続けると、15年の暖房の燃料代は約7,413万円です(年2%上昇、税込)。ハイブリッド加温にすると、設備費600万円と増える電気代を含めて約6,259万円で、約1,154万円少なくなります。最初の約6年は設備費の分だけ費用が多く、その後に逆転します。燃料が140円に上がる年が続けば差はさらに広がり、100円に戻れば約218万円に縮みます。

CO2:10a・30aのハイブリッドで約36〜60%減。早く回収する設計とは一致しない

A重油のCO2排出係数(2.75kg-CO2/L、算定方法・排出係数一覧)と、各電力会社の残差の排出係数で計算すると、暖房のCO2は10a・30aのハイブリッドで約36〜60%減りました。ヒートポンプの効率が高く、受け持つ熱の割合が大きいいちご・トマトで減り幅が大きくなります。一方、低圧に収めた1ha・40馬力は約11〜27%減にとどまり、200馬力(高圧)は約23〜60%減です。みどりの食料システム戦略の2050年目標(化石燃料を使用しない施設への完全移行)に向けては、経済性で選んだ台数のあと、再エネの電気の調達や保温の強化で上積みする二段構えが現実的です。ヒートポンプの導入による削減は、J-クレジット制度の方法論の対象にもなりえます。登録の要件と手続きは、制度の事務局の最新情報で確認してください。

追いかけるべきKPI

KPI見る理由目安(本試算)
10aあたりの月別の燃料購入量(kL)ヒートポンプの効果を決める最大の要素関東のトマトで年約12kL、バラで約23kL(重油だけの場合)
暖房の熱1kWhあたりの費用(燃料・電気)熱源の比較を同じ物差しでA重油120円で約13.1円、ヒートポンプは電力量だけで約6〜7円+基本料金
ヒートポンプの運転時間と、外気温別の効率カタログとの差を早く見つける年間の平均の効率 約3.6〜4.0(関東・九州)、約3.2〜3.3(北海道)
契約電力(低圧の機器容量、高圧の最大需要)基本料金の段差。高圧化の判断低圧で受電できる契約は50kW未満まで
太陽光の自家消費率容量が大きすぎないかハウスの作業場10kWで約33%。7割以上を目安に容量を決める
停電時に動かせる暖房の時間作物被害のリスク重油の暖房機2kWなら使える9kWhで約4.5時間

よくある思い込みと、試算の結果

思い込み試算の結果
ヒートポンプはどのハウスでも得になる基準条件では81ケース中56で15年以内に回収(効率と設備費を厳しく見ると20〜49)。九州のいちご(10a・30a)は重油140円でも回収しなかった
台数は多いほどよい(重油をゼロに近づける)1haのいちご・トマトでは、低圧に収めた40馬力のほうが200馬力(高圧)より15年の正味が大きい。燃料の多いバラは例外
寒い地域ほどヒートポンプが得熱は増えるが、効率の低下と高圧の基本料金で燃料価格への感応度が大きい。北海道の1haはA重油100円ではどの品目も回収せず、140円では3品目とも回収
ヒートポンプを入れれば太陽光の電気を使い切れる暖房は夜のため、作業場の太陽光の自家消費率はほぼ変わらない(10aで約33%)
余った太陽光は蓄電池にためれば元が取れる価値は1kWhあたり約4.5万〜9.1万円で、想定価格15.4万円の約3〜6割。54ケース中0で回収せず
営農型太陽光なら農地で発電して稼げる売電だけなら1kWhあたり約16〜22円が必要(設備費しだい)。2割以上の減収を避ける営農と報告が前提で、ルールは厳しくなる方向
セーフティネットに入っていれば燃料高は怖くない補塡は高騰分の一部で、使用量は減らない。補塡基準100.2円を下回る価格でも元が取れるヒートポンプの組み合わせが多い

品目・規模・業態別の読み解き

バラ・高温性の花き(通年加温、夜温18℃前後)

燃料が最も多く、ヒートポンプは27ケース中26で回収しました(関東・九州の10a〜1haでは120円で約2〜6年)。1haでは、燃料の量が大きいため、200馬力(高圧)まで入れても15年の正味は40馬力より大きくなりました。夏の夜の冷房・除湿にも使える機種なら、品質面の効果も上乗せになります(本試算は暖房のみ)。

トマト・きゅうりなど果菜類(夜温10〜12℃前後)

関東・九州の10a〜30aでは、A重油120円で約5.7〜9.7年で回収しました。100円では関東の10a・30aも約11.5〜13.7年に延びます。1haは低圧に収める40馬力が最も有利で、200馬力の高圧化は燃料が140円の年が続く前提でなければ勧めにくい結果です。

いちご・低温管理の品目(夜温5〜8℃前後)

暖房の熱が少なく、ヒートポンプの基本料金と設備費を取り戻しにくい品目です。関東の10aは140円で約8.8年、九州の10a・30aはどの価格でも回収しませんでした。まず多層カーテンや被覆の更新、変温管理で燃料を減らし、ヒートポンプは規模が大きく低圧に収まる台数で検討するのが順番です。

畜産(鶏舎・牛舎)、選果場・予冷庫、ライスセンター

燃料より電気の比重が高く、太陽光の自家消費は「昼に電気を使う季節と時間」で決まります。換気を通年回す採卵鶏の鶏舎は自家消費率約90%で回収約11年(需要は仮定)でした。収穫期に集中するライスセンターや、季節が限られる選果場は、容量を小さめに決めるか、余りの行き先(近隣の需要家への供給など)を設計に入れます。乾燥機の燃料(灯油など)は本試算に含めていません。

稟議・説明に使える一文

  • 経営者:「関東・トマト30aでハイブリッド加温(50馬力・600万円)を入れると、A重油120円・年2%上昇で15年の暖房費は約1,154万円少なくなり、回収は約5.7年です。重油が100円に下がっても15年で約218万円のプラスです。」
  • JA・産地の営農指導:「セーフティネットの補塡基準(100.2円/L)を下回る重油価格でも、バラと一部のトマトではヒートポンプが元を取れます。補塡と省エネ機器は組み合わせて使い、加入要件の燃料15%削減にもつなげます。」
  • 規模拡大する法人:「1haのいちご・トマトでは、低圧に収まる40馬力のほうが200馬力(高圧+受電設備)より15年の正味が大きい試算です。台数は燃料の量と基本料金の段差で決めます。」
  • 環境・取引先対応:「10a・30aのハイブリッドで暖房のCO2は約36〜60%減ります。重油の暖房機は残し、寒い夜と停電時の備えにします。」

導入の進め方

  1. 燃料の実績を集める。過去2〜3年の月別の燃料購入量と単価、ハウスの面積・被覆・カーテンの枚数、設定温度と作型を整理します。
  2. 熱を減らす手を先に打つ。多層カーテン、被覆の更新、すき間対策、変温管理で燃料を減らし、ヒートポンプの必要な台数を小さくします。
  3. 電気の契約を確認する。現在の契約(低圧電力・従量電灯・高圧)と契約電力、受電設備の有無、低圧の上限(50kW未満)までの余裕を確認します。農事用の料金メニューがある電力会社もあるため、対象と条件は契約先に確認します。
  4. 台数を1台ずつ比べる。メーカーの性能表(外気温別の暖房能力と消費電力)で、台数を1台ずつ増やしたときの燃料の減り方と基本料金の増え方を比べます。
  5. 補助とセーフティネットを確認する。省エネ設備の導入支援(産地の計画にもとづく国・都道府県の事業)や施設園芸セーフティネットの要件・期限を、都道府県・JAの窓口で確認します。
  6. 停電時の備えを決める。重油の暖房機を残し、制御盤への給電(発電機・蓄電池・UPS)と燃料の備蓄を決めます。太陽光・蓄電池は、昼の電気が多い作業場・選果場・畜舎から検討します。

エネがえるでできること

エネがえるBizは、産業用・業務用の自家消費型太陽光・蓄電池の経済効果を、施設の30分デマンドデータや業種別のロードカーブ・テンプレートで試算するクラウドサービスです。全国の電力会社の高圧・低圧の料金メニューと燃料費調整単価を反映し、回収年数・20年収支・CO2削減量を提案書の形で出力できます。農業施設・畜舎の太陽光の需要開拓や適地の選定は、屋根・壁面ソーラーラボでも整理しています。ヒートポンプによる暖房の電化を含めた全体の試算や、産地・JA単位での一括試算は、試算代行(BPO)で個別にご相談ください。

よくある質問

ハウスの暖房をヒートポンプにすると元が取れますか?

品目と燃料価格で分かれます。関東・九州・北海道の81ケース(A重油100・120・140円/L、電気・燃料とも年2%上昇、補助なし、税込)では、ハイブリッド加温の追加投資が15年以内に回収できたのは56ケースでした(定格COP4.0・霜取りによる効率低下なし・設備費240万円/20馬力の場合。霜取りを含め効率と設備費を厳しく見ると20〜49ケースです)。品目別ではバラ26/27、トマト21/27、いちご9/27です。関東・10a・120円では、バラ約3.4年、トマト約6.5年で回収し、いちごは15年で回収しませんでした。

A重油がいくらならヒートポンプは得になりますか?

15年の正味がゼロになるA重油価格は、バラ約70〜115円、トマト約80〜135円、いちご約95〜240円/Lでした(地域・規模で異なる)。農業物価統計のA重油価格は2026年3月に141.4円/Lで、施設園芸セーフティネットの令和8事業年度の補塡基準は100.2円/Lです。自分のハウスの燃料の量と、ヒートポンプの性能表で確かめてください。

ヒートポンプは何台入れればよいですか?

重油の暖房機を残すハイブリッドなら、すべての熱をまかなう台数は不要です。本試算では、1haで低圧の上限内に収めた40馬力(暖房能力112kW)が18ケース中17で回収し、回収年数の中央値は約4.0年でした。200馬力まで増やして高圧で受電すると、冬の夜の最大需要で基本料金が1年中上がり、受電設備も必要になります。いちご・トマトでは低圧に収める台数のほうが有利で、燃料の多いバラは大きく入れても回収できました。

九州や暖かい地域でもヒートポンプは得ですか?

設定温度の高い品目なら得です。九州(熊本)のバラは10aでA重油120円のとき約3.4年で回収しました。いちごは暖房の熱が少なく、10a・30aはどの価格でも回収しませんでした。基本料金は暖房を使わない月もかかるため、暖房の熱が少ないほど不利になります。

ハウスに太陽光を載せれば、ヒートポンプの電気をまかなえますか?

ほとんどまかなえません。暖房は夜で、太陽光は昼に発電するためです。作業場の屋根の太陽光(10a・10kW)の自家消費率は約33%で、ヒートポンプを入れてもほぼ同じでした。余りを売らない前提では10a・30aの太陽光は20年で回収しませんでした。太陽光は、昼に電気を使い続ける鶏舎・選果場などから検討するのが基本です。

蓄電池で昼の太陽光を夜のヒートポンプに回せば得ですか?

電気代だけでは回収しません。15年で回収できる蓄電池の価格は1kWhあたり約4.5万〜9.1万円で、想定価格15.4万円/kWh(税込)の約3〜6割でした(54ケース中0で回収)。蓄電池を入れるなら、停電時に暖房機の制御を守るなど、電気代とは別の価値で判断します。

営農型太陽光(ソーラーシェアリング)は採算が合いますか?

売電だけでは成り立ちにくい試算です。10aあたり40kW(関東)で20年でちょうど元が取れる売電単価は、設備費1kWあたり22万〜33万円で約16〜22円/kWhでした(作物の収入と減収、地代は含まない)。2024年4月から一時転用の許可基準が農地法施行規則に定められ、下部の農地では平均的な単収からおおむね2割以上減らさないことが求められます。2026年4月の検討会では、遮光率30%未満などを求める新制度の案が示されています。

停電したとき、ハウスの暖房はどうなりますか?

重油の温風暖房機も、燃焼の制御と送風に電気を使うため止まります。ただし必要な電気は小さく(本試算は10aで約2kWと仮定)、使える容量9kWhの蓄電池や小型の発電機で数時間動かせます。ヒートポンプは10a・20馬力で約14kWの電気が要るため、停電時の暖房の主役にはなりません。ハイブリッドで重油の暖房機を残すのは、停電への備えでもあります。

試算の前提条件(すべて公開)

項目値区分
計算方法1時間ごと(年8,760時間)を2016〜2023年の8年の気象それぞれで計算し平均。ヒートポンプは15年、太陽光は20年。電気・燃料とも年2%上昇(感度:片方だけ上昇)。消費税込みで比較M/H
気象・発電PVGIS(欧州委員会共同研究センター)ERA5の時間値(気温・斜面日射・発電量)。地点:宇都宮(関東)、熊本(九州)、札幌(北海道)。発電は1kW・システム損失14%・傾斜10°・真南を、シリーズ共通の係数1200/1326で補正(年約1,040〜1,090kWh/kW)A/M
温室の暖房の熱放熱10aあたり5.5kW/℃(静岡県の指針の試算条件:床1,000m²・表面積1,650m²・放熱係数3.5W/m²K=約5.8kW/℃を参考)×(設定温度−外気温)−日射の取り込み(0.35kW/(W/m²)/10a)。加温期間:いちご8℃・10〜4月、トマト12℃・10〜5月、バラ18℃・通年B/H
重油の暖房機A重油の発熱量38.9MJ/L、効率85%。A重油100・120・140円/L(税込)A/H
ヒートポンプ空気熱源。定格COP4.0(外気7℃)、外気温1℃あたり0.09、設定温度15℃超1℃あたり0.05低下(下限1.8・上限5.0)。暖房能力は外気温1℃あたり1.5%低下(7℃基準、下限70%)。霜取り運転による効率の低下は基準では含めない(寒冷時は1割前後低くなりうる。図13では外気2℃以下で×0.9)。設備費は20馬力(暖房能力56kW)240万円の比例(静岡県の指針(2022年)の例、税込とみなす。熊本県の試験(2023年)では1台約73万〜122万円・工事費込み。図13で4.3〜8万円/kWの感度)、保守費は年1.5%H(設備費の例はA)
規模と台数10a:20馬力(56kW)、30a:50馬力(140kW)、1ha:40馬力(112kW、低圧)または200馬力(560kW、高圧)。低圧の契約電力=ヒートポンプの定格消費電力(暖房能力÷4.0)。高圧は年間の最大需要。1ha・200馬力は受電設備1,000万円(北海道は既に高圧受電と仮定し0)H
加温以外の電気年5,000kWh/10a(循環扇・換気扇・かん水・環境制御)。昼中心、4〜10月に多い形。設備容量は10a 3kW、30a 8kW、1ha 20kWH
電気料金(関東)東京電力EP 低圧電力:基本料金1,190.83円/kW(力率割引0.95)、電力量料金 夏季27.19円・その他季25.62円、燃料費調整−4.65円(12月分)。高圧ベーシックプラン:基本料金2,530円+託送見直し分108.57円/kW(推計)、17.43円、燃料費調整1.50円(11月分、関東エリア)。いずれも税込A(託送分は推計)
電気料金(九州)九州電力 低圧電力:基本料金1,164.92円/kW、夏季17.38円・その他季15.69円、燃料費等調整1.94円(12月分、離島ユニバーサルサービス調整を含む)。産業用電力A(高圧):2,343.19円/kW、16.50円・15.61円、1.20円。税込A
電気料金(北海道)北海道電力 高圧電力(一般料金、6,000V、2026年11月1日実施):基本料金3,157.10円/kW、21.69円/kWh、燃料費等調整0.68円(12月分)。税込A
再エネ賦課金4.18円/kWh(2026年度)A
CO2排出係数A重油2.75kg-CO2/L。電気は東京電力EP 0.452、九州電力 0.472、北海道電力 0.526kg-CO2/kWh(残差メニュー、シリーズ共通)A
太陽光(作業場の屋根)10a 10kW・30a 20kW・1ha 50kW。設備費27.5万・25.3万・22.0万円/kW(税込)、保守3,300円/kW・年、パワコン交換13年目2.2万円/kW、劣化年0.5%。余りは売らない(感度:8円/kWhで売る)H
蓄電池太陽光1kWあたり1kWh、出力0.5C、使える容量90%、往復効率88%、劣化年1.5%、15年。昼の余りだけで充電。想定価格15.4万円/kWh(税込、税抜14万円)H
施設タイプ別の太陽光30kW、関東・低圧電力。鶏舎 年100MWh(夏2倍)、牛舎50MWh(搾乳時間帯3倍)、ライスセンター30MWh(9〜10月)、選果場・予冷庫40MWh(6〜11月)。需要の形はすべて仮定H
営農型太陽光10aあたり40kW、関東の発電、設備費22万・27.5万・33万円/kW、保守4,400円/kW・年、パワコン交換13年目、売電単価8〜21円/kWh。作物の収入・減収、地代、利益還元は含まないH
停電時重油の暖房機の消費電力 10aあたり約2kW(1台約1kW×2台)、蓄電池10kWh(使える9kWh・出力5kW)H

この試算の限界

  • 温室の暖房の熱は、放熱と日射の単純なモデルで、品目ごとに1つの温室の条件を当てはめています。被覆・カーテンの枚数、すき間、土壌からの熱、換気、作型、設定温度の運用(変温管理)で燃料の量は大きく変わります。
  • ヒートポンプの効率は外気温と設定温度の単純な式による仮定で、霜取り運転や部分負荷の効率、機種による差は個別には反映していません。効率が2割低いと結論が大きく変わります(何が変わると結論が変わるか)。
  • ヒートポンプの冷房・除湿の効果、作物の品質・収量への影響、重油の暖房機の保守費の減少は含めていません。
  • 電気料金は各社の標準的な料金表で計算しました。農事用電力など、用途や期間が限られる料金メニューは対象と条件が会社ごとに異なるため使っていません。北海道は低圧の料金を使わず、1ha・高圧(既に高圧受電)のみ計算しています。農事用の料金メニューを暖房用途に適用できるかは、各社の約款で確認してください。
  • 低圧電力の細かな規定は反映していません。たとえば東京電力EPの低圧電力は、電気をまったく使わない月の基本料金が半額になり、契約電力は主開閉器契約のほか、負荷設備の総容量に係数を掛けて決める方法も選べます。ヒートポンプを別の契約で夏に止める場合などは、本試算より基本料金が少し下がる可能性があります(各社の約款で確認)。
  • 施設タイプ別の太陽光と営農型太陽光は、需要の形・設備費・売電単価がすべて仮定の、比較のための試算です。
  • 補助は「設備費の1/2」という単純な感度だけで、特定の補助事業の要件・上限は反映していません。
  • 燃料・電気の価格の上がり方(年2%)は仮定で、実際には大きく上下します。

ファクトチェック・エビデンス検証一覧

主要な数値と主張の根拠と検証方法を一覧にしました。出典はできる限り一次情報(官公庁・電力会社・公的機関・都道府県の公式資料)にリンクし、仮定とモデル計算は区分で区別しています(A=一次情報で確認、B=業界団体・専門機関・二次資料、M=本記事のモデル計算、H=仮定・専門家判断)。

検証の方法

  • 一次情報との照合:農林水産省の施設園芸・営農型太陽光の資料、都道府県のセーフティネットの公募、電力各社の料金表と燃料費等調整、排出係数を公式資料で確認しました(確認日:2026年11月7日)。
  • 独立計算モデルによる再計算:8,760時間×8年の気象のモデルで81ケース(上昇率の組み合わせを含め243ケース)を試算し、コードとケース別データで管理しています。料金計算は業種別×規模別の試算と同じ料金表を使っています。
  • 独立レビュー:独立レビューで指摘された点を修正し、再確認しました。ヒートポンプの効率(霜取り)と設備費の感度(図13)を追加しています。
主張・数値値区分出典・検証
農業経営費に占める動力光熱費の割合施設ピーマン28%、施設温州ミカン36%、施設ばら28%、稲作7%。施設ばらの10aあたり農業経営費3,823千円・粗収益5,032千円A農林水産省「施設園芸をめぐる情勢」(令和8年5月)(営農類型別経営統計R5・R6)
園芸用施設と加温設備の面積園芸用施設37,278ha(令和6年)、うち加温設備あり16,162ha(約4割)A同上(園芸用施設の設置等の状況)
施設園芸のA重油価格2026年3月141.4円/L(農業物価統計調査)。加温期間(11〜4月)の平均の直近値は約120円/L(119.5円、年の表記は図から判断)A(加温期の年はB)同上
施設園芸セーフティネット構築事業(令和8事業年度)補塡の基準:A重油100.2円/L、灯油106.2円/L、LPガス131.1円/kg、LNG80.5円/m³。農業者と国が1対1で積立。対象期間は10月〜翌6月から選択。補塡数量は70%(省エネ加速化特例で100%)。燃料使用量を15%以上削減する計画が要件A山梨県 令和8事業年度の公募、茨城県 令和8事業年度
みどりの食料システム戦略の施設園芸の目標2030年:加温面積に占めるハイブリッド型園芸施設等の割合50%。2050年:化石燃料を使用しない施設への完全移行A農林水産省 施設園芸における化石燃料の使用量削減
温室の放熱・ヒートポンプの例試算条件:床1,000m²・表面積1,650m²・放熱係数3.5W/m²K(一層カーテン)、20馬力(暖房定格56kW)。ヒートポンプの価格を240万円/10aとした例。ハイブリッド方式の推奨、台数が多いと高圧の契約と受電設備が必要A(設定は2022年時点)静岡県「農業における省エネルギー技術対策指針(改訂版)」令和4年10月
営農型太陽光の一時転用の許可基準(現行)2024年4月1日に農地法施行規則・ガイドラインを施行。期間は通常3年以内、担い手の営農・遊休農地・第2種/第3種農地は10年以内。下部の農地は平均的な単収と比較しておおむね2割以上減収しないこと。毎年の栽培実績・収支の報告。最低地上高2m以上。施行前の事業は許可期間満了まで旧制度A農林水産省 営農型発電設備について(概要 令和6年4月改訂版)
営農型太陽光の新制度案遮光率30%未満(判定困難な設備は日射量の減少20%未満)、最低地上高おおむね3m以上・支柱間隔おおむね4m以上、栽培品目について50万円以上の生産・販売実績など。農山漁村再エネ法の設備整備計画の認定と組み合わせる方向。令和5年度末で存続する設備の24%(5,167件中1,221件)で営農に支障。施行時期は資料に記載なしA(案)農林水産省「望ましい営農型太陽光発電に関する検討会」第6回 資料1(令和8年4月)。解説としてPwC弁護士法人のニュースレター(2026年8月)も参照
営農型太陽光の許可実績令和5年度までの累計 6,137件、下部農地面積1,361.6haA農林水産省 太陽光発電設備を設置するための農地転用許可実績(農村計画課調べ)
電気料金(関東・九州・北海道)前提条件の表のとおり(2026年11月以降の単価、12月分の燃料費等調整。関東の高圧は11月分1.50円)A各社の公表単価(シリーズ共通の料金表、2026年11月7日確認)。北海道電力 6,000V料金単価表
A重油の排出係数2.75kg-CO2/L(38.9GJ/kL×0.0193tC/GJ×44/12)A環境省 算定方法・排出係数一覧
ヒートポンプの回収(15年以内)81ケース中56(10年以内46)。バラ26/27、トマト21/27、いちご9/27。補助1/2で61、設備費+30%で48M独立計算モデル(heat.csv。基準条件:霜取りによる効率低下なし)
ヒートポンプの効率×設備費の感度霜取り込み(外気2℃以下で×0.9)、定格COP3.2〜4.0×設備費4.3〜8万円/kWで、15年以内の回収は81ケース中20〜49。元が取れるA重油価格の中央値 約105〜144円M独立計算モデル(hp_grid.csv、2,187ケース)
ヒートポンプの導入経費の例床置き型4馬力 約73万円/台、天吊ダクト型5馬力 約122万円(工事費込み)。10aあたり3台が目安A熊本県 農業研究成果情報No.1041(2023年6月)
施設大玉トマトの動力光熱費部門経営費18,144千円のうち動力光熱費2,115千円(11.7%)。1経営体平均・作付延べ面積4,723.9m²A農林水産省「営農類型別経営統計」令和5年(e-Stat 表k014)
低圧電力の基本料金の規定電気をまったく使わない月は基本料金が半額。契約電力は主開閉器契約または負荷設備契約A東京電力エナジーパートナー 低圧電力(2026年11月7日確認)
元が取れるA重油価格バラ約70〜115円、トマト約80〜135円、いちご約95〜240円/LM3つの重油価格の結果を直線で補間
太陽光の自家消費率(作業場の屋根)10a 約33%、30a 約46%、1ha 約57%(ヒートポンプの有無でほぼ同じ)M/H独立計算モデル(pv.csv)。需要の形は仮定
蓄電池の損益分岐1kWhあたり約4.5万〜9.1万円(54ケース、回収0)M/H独立計算モデル(battery.csv)
営農型太陽光の損益分岐の売電単価設備費22万・27.5万・33万円/kWで約16.4・19.1・21.9円/kWhM/H独立計算モデル(agrivoltaic.csv)。設備費・保守費は仮定
低圧で受電できる契約の上限契約電力50kW未満(それ以上は高圧で受電)B電力各社の契約の区分。静岡県の指針も台数増加時の高圧化と受電設備の費用に注意
J-クレジット(ヒートポンプ導入)ヒートポンプの導入による削減は方法論の対象になりうるBJ-クレジット制度事務局の方法論一覧で要確認(本記事では試算していない)

試算・分析:エネがえる(国際航業株式会社)/公開:2026年11月7日/更新:2026年11月7日(独立レビューを反映し、ヒートポンプの効率×設備費の感度を追加)/試算条件の確認日:2026年11月7日。毎月、燃料費調整・再エネ賦課金・A重油価格・セーフティネットの基準・営農型太陽光の制度の動きを確認し、変化があれば再計算して更新します。関連する試算:業種別のエネルギー費はどこで削れる?/産業用の自家消費型太陽光・蓄電池の業種別×規模別の試算/24時間稼働の工場の太陽光・蓄電池・ヒートポンプの試算/雪国の産業用太陽光の試算/補助金の費用対効果の試算/DRの需要家メリットの試算/エネがえる試算ライブラリ。

著者情報

国際航業株式会社カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG

樋口 悟(著者情報はこちら)

樋口 悟(Satoru Higuchi)。国際航業株式会社 カーボンニュートラル推進部 デジタルエネルギーグループで「エネがえる」の事業開発を担当。住宅・産業用太陽光、蓄電池、EV・V2H、PPA、電力料金・補助金の経済効果を扱い、SaaS・API・BPOによる比較提案・導入判断を支援しています。「太陽光・蓄電池導入意思決定白書2026」の監修、独自調査、官公庁・自治体の試算支援、APIを活用したサービス開発・協業にも取り組みます。執筆・更新では一次情報と試算条件の明示を重視し、公表値と独自の推計・仮定を区別します。 詳しいプロフィール・活動実績・参照資料 / 監修した白書

顧客の声・公開登壇記録
・共伸興建・市川様の公開インタビュー(2023年1月11日):「樋口さんが電話に結構すぐ出てくれる」「業界の知見がある」。操作に加え、提案方法や試算ロジックへの相談対応をご評価いただきました。同インタビューでは、利用者増加時にも同じ品質のサポートを求める声をいただいています。
・東京都・東京都環境公社のWEBシンポジウム(2024年3月15日):「太陽光発電と都市の可能性」の講演者として、樋口悟の氏名・所属・略歴が主催者の公式ページに掲載されています。
協業や資料のご案内では「迅速なご対応とご送付、ありがとうございます!」、AIサポートによる操作案内では「ありがとうございます。助かりました。」などのお客様の声をいただいています。
公開インタビュー以外のお客様の声は、企業名・氏名を省略して紹介しています。AIサポートへの声はサービスへのご感想です。

エネがえるの導入・活用実績
エネがえるは、官公庁・自治体、大手メーカー、商社、電力・ガス会社、住宅メーカー、有力販売施工店など、全国700社以上に導入されています。主な導入・活用先には、環境省、地方自治体、シャープ、パナソニック、ニチコン、スズキ、村田製作所、ダイヘン、三菱電機、ネクストエナジー・アンド・リソース、エリーパワー、NTT-ME、東京ガス、東邦ガス、大和ハウス工業、東京センチュリー、ELJソーラーコーポレーションなどがあります。
導入事例を見る / 主な導入・活用先の掲載情報
エネがえる全体の実績です。掲載先には導入・連携・実証・事例掲載等を含みます。

ご相談・お問い合わせ
エネがえるのご相談はもちろん、新規事業開発、アライアンス、執筆・セミナー講演、リサーチやデータセット開発などのご相談も承ります。まだ具体的に決まっていないお話でも、お気軽にご連絡ください。
TEL:070-3669-8761 / Mail:satoru_higuchi@kk-grp.jp

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