結論から言います。ホテル・旅館で一番大きな打ち手は、太陽光でも蓄電池でもなく「お湯」です。エネがえるの試算では、温泉旅館の給湯と浴場の加温をA重油のボイラからヒートポンプ+貯湯槽に替えると、大型旅館(100室、関東)で年約863万円、燃料費の減少が電気代の増加を上回りました(A重油 税込140円/L・COP3.0の仮定、機器費は含まない)。屋根の自家消費型太陽光も、太陽光だけの72ケースすべてが保守費込みで12.0年以内に回収(中央値9.0年)します。一方で、蓄電池の上乗せ分が電気代の削減だけで15年以内に回収できたケースは144ケース中0でした。今回の合成プロファイル(4施設とも同じ形)では電気の山が夕方から夜まで約7時間続くと仮定しており、契約電力の0.2〜0.4時間分の蓄電池では削り切れないためです。
3つの答え
- 太陽光は、ホテル・旅館なら全規模・全エリアで元が取れる(太陽光のみの72ケース=4施設×3エリア×太陽光2通り×電気代上昇率3、保守費・交換費込みですべて12.0年以内・中央値9.0年)。夜も需要が残るため、自家消費率は全ケースで98%以上でした。ただし屋根の広さに比べて需要が大きく、まかなえる電気はシティホテルで約2〜4%、大型旅館で約5〜10%、30室の温泉旅館でも約13〜23%です。
- 蓄電池は電気代の削減だけでは元が取れない(144ケース中0、需要を完全に予測できる上限でも0)。今回の合成プロファイル(4施設とも同じ形)では電気の山を17〜24時の約7時間と仮定しており、最大需要を下げられたのは約4〜6%にとどまりました。15年で回収できる蓄電池の価格は、現実的な制御で中央値約4.6万〜7.6万円/kWh(施設・容量別)でした。完全予測の上限の最大は約13.9万円/kWh(温泉旅館・関東・屋根+カーポート・0.2時間分・上昇率3%)で、想定価格14万円/kWh(税抜)とほぼ同じです。導入するなら、災害時に客室・館内の一部を動かす価値など、電気代とは別の物差しで判断します。
- 太陽光より先に「給湯・浴場加温の電化と貯湯槽」。年間の差額(燃料費の減少−電気代の増加、関東、機器費は含まない)は、ビジネスホテルで約89万円、シティホテルで約575万円、30室の温泉旅館で約321万円、大型旅館で約863万円でした。重油やLPガスを使う旅館ほど差が大きく、貯湯槽なしで昼に沸かすと契約電力が上がり、差額は施設により約2割〜4割小さくなります。都市ガスが税込90円/m3まで安く、COPが2.5まで下がると逆転します。
この記事で分かること(数値の要点)
- 旅館の客室稼働率は38.2%、ビジネスホテルは75.3%。観光庁の宿泊旅行統計調査(2025年・確定値)では、施設タイプで稼働率が2倍近く違います(同調査の「施設タイプ別客室稼働率(2025年1月〜12月(確定値))」の表)。稼働率が低い旅館でも、浴場の加温・保温の熱は客数にかかわらず毎日かかります。
- 旅館の光熱費は「業務費16.6%」の中に埋もれています。日本旅館協会の調査(令和6年度決算)では、総売上高に対して人件費29.7%、業務費(サービス費・修繕費・水道光熱費など)16.6%、営業費(OTA手数料など)12.9%で、経常利益は7.6%でした。
- エネルギー費に占める燃料の割合は、旅館で約24〜38%、ホテルで約12〜13%(関東の施設モデル、厨房・暖房の燃料を除く)。旅館では電気だけを対策しても、エネルギー費の3〜4割に手が届きません。
- 太陽光の回収年数(保守費・交換費込み)は6.7〜12.0年。エリア別の中央値は関西8.4年、関東9.1年、九州9.9年。設置費用が3割高くても、上昇率2%の24ケース中23ケースが15年以内です(最長15.1年)。
- 停電時、蓄電池は「容量(kWh)」より先に「出力(kW)」で決まります。重要負荷を契約電力の15〜20%と仮定すると、出力が容量の半分(0.5C)の0.2kWh/kWの蓄電池は全施設で0時間でした。大型旅館(重要負荷60kW)が蓄電池だけで3時間を守るには約193kWh・約2,700万円が必要です。
- 何もしない場合、電気代と燃料費の値上がり分だけで、大型旅館(関東)は20年で約3.1億円の負担増になります(年2%の上昇を仮定)。屋根の太陽光が20年で取り戻すのは設置費を引いて約3,862万円(保守費を除く)、給湯・浴場の電化の差額は機器費を除いて約2.1億円です。
検証の主体:エネがえる(国際航業株式会社)。216ケース(+給湯・浴場加温を電化した比較216ケース)は1時間単位(8,760時間)の独立計算モデルで試算しました。施設の電気の需要は4施設とも同じ形の合成プロファイルで、実際の30分デマンドデータではありません。客室数・1室あたりの人数・給湯量・浴場の熱量・燃料単価・ヒートポンプの効率は仮定で、感度分析で幅を示しています。
なぜホテル・旅館を別に計算するのか
宿泊業は、ほかの業種と4つの点で違います。
- 熱(お湯)の比率が高い。客室の風呂・シャワー、大浴場、厨房、ランドリーと、宿泊業は60℃前後のお湯を大量に使います。省エネルギーセンターの資料でも、ホテルは水の使用量が多く、宿泊部門は給湯の使用量が部門中で最大、年間では気温の低い冬に多いと整理されています(省エネルギーセンター「ホテルの省エネルギー」)。温泉旅館では、これに浴場の加温・保温が加わります。
- 電気の山が夕方から夜。チェックイン後の客室の空調・照明、レストラン・宴会、浴場の利用が重なり、需要は17時から深夜まで高い状態が続きます。昼に発電する太陽光とは時間がずれ、蓄電池で山を削るには長い時間の放電が必要です。
- 稼働率が大きく動く。2025年の客室稼働率は、旅館38.2%、リゾートホテル56.9%、ビジネスホテル75.3%、シティホテル74.1%でした(観光庁「宿泊旅行統計調査(2025年・年間値(確定値))」)。外国人の延べ宿泊者数は1億7,992万人泊(前年比+9.4%)と増え、日本人は4億8,118万人泊(同−2.7%)でした。お湯の量は客数とともに動きますが、浴場の保温や共用部の空調は客数にかかわらず続きます。
- 災害時に「避難の受け皿」になる。令和6年能登半島地震では、石川県が県内外の宿泊施設に協力を求めて2次避難所を開設し、県内270施設(最大7,322名分)・県外839施設(最大23,806名分)を確保しました。2次避難者は2月16日に5,275人まで増え、宿泊単価の高い温泉旅館などでの受け入れが多かったため、基準額を1人1泊7,000円から10,000円に引き上げています(内閣府 令和6年能登半島地震を踏まえた災害対応検討ワーキンググループ(第3回)資料3-2-10(石川県))。停電・断水への備えは、営業の継続だけでなく、地域の受け皿としての役割にもつながります。
このため、「屋根に太陽光と蓄電池を載せれば電気代が下がる」という一般的な提案は、宿泊業ではエネルギー費の半分しか見ていないことになりがちです。電気と熱をまとめて、どの順番で手を付けると効くのかを試算で確かめたのがこの記事です。業種をまたいだ全体像は業種別のエネルギー費はどこで削れる?24業種×規模別に経営課題と打ち手を整理に、産業用・業務用の太陽光・蓄電池の業種別の比較は産業用の自家消費型太陽光・蓄電池は元が取れない?業種別×規模別に実試算にまとめています。停電時に何時間守れるかを客室やサービスから逆算する考え方はホテル・旅館の太陽光・蓄電池容量|守るサービスから停電時間を計算で解説しています。
経営課題からエネルギー費の打ち手までを4段で整理する
①経営課題:人手不足・販売費の増加・稼働率の波

日本旅館協会の令和7年度営業状況等統計調査(回答した会員の旅館・ホテル、令和6年度の決算)では、総売上高に対する人件費は29.7%で、協会は慢性的な人手不足により低い水準になっていると説明しています。営業費は12.9%で、OTA(オンライン旅行会社)への販売費用が増えています。業務費は16.6%で、消耗品やリネン代の値上げに加え、修繕費も人手不足を理由に高くなっていると記されています。光熱費(水道光熱費)はこの業務費の中に含まれ、単独の比率はこの調査の公表資料では示されていません(日本旅館協会「令和7年度 営業状況等統計調査」解説編、同 資料編)。
同じ調査では、1軒あたりの平均客室数は66室、規模別の総売上高は大規模(100室以上、平均180室)約19.8億円、中規模(31〜99室、平均59室)約7.3億円、小規模(30室以下、平均17室)約2.7億円でした。会員施設の客室稼働率は61.4%、1室あたりの宿泊利用人員は2.45人(解説編 p.24 表18、令和6年)で、観光庁の統計の旅館全体(38.2%)より高くなっています。
病院・介護施設と違い、宿泊業は料金を自分で決められます。しかし、人件費・販売費・修繕費が同時に上がる中で、エネルギー費の上昇分まで客室単価に乗せ続けられるとは限りません。「手間がかからず、毎年確実に効く打ち手から順番に」が現実的な条件になります。
②エネルギー費の構造:電気は夕方〜夜の山、熱は旅館で3〜4割


試算の4つの施設モデルは、統計と文献の規模感に合わせて置きました(施設の条件は仮定)。
| 施設モデル | 客室・契約電力 | 1日の宿泊者(仮定) | 電気代(関東、税抜) | 給湯・浴場加温の燃料(関東、税抜) |
|---|---|---|---|---|
| ビジネスホテル | 100室・高圧140kW | 約98人(稼働率75.3%×1.3人) | 約1,895万円 | 都市ガス 約281万円 |
| シティホテル | 300室・高圧1,000kW | 約378人(74.1%×1.7人) | 約1億3,534万円 | 都市ガス 約1,809万円 |
| 温泉旅館(小) | 30室・高圧80kW | 約28人(38.2%×2.45人) | 約1,083万円 | A重油 約650万円(うち浴場の熱が約8割) |
| 大型旅館 | 100室・高圧400kW | 約94人(38.2%×2.45人) | 約5,414万円 | A重油 約1,746万円(うち浴場の熱が約7割) |
大型旅館の電気代と燃料費の合計(年約7,159万円)は、日本旅館協会の大規模(100室以上)の1室あたり総売上高(約1,100万円)から100室で概算した売上高(約11億円)の約6.5%にあたり、光熱費を含む業務費16.6%の内側に収まります(試算は税抜。調査の売上高の税の扱いは公表資料で確認できていないため、規模感の目安です)。シティホテルの1次エネルギー消費量は延床面積あたり約2,122MJ/m2(延床25,000m2と仮定、厨房・暖房の燃料を除く)で、省エネルギーセンターが示す地域熱供給のホテル(延床70,000m2)の2,772MJ/m2より小さく、除いた燃料の分を考えれば整合する範囲です。
- 電気は「夕方〜夜の山」。4施設とも、17〜24時の平均需要は最大需要の約78%、昼(10〜17時)は約51%、深夜は約45%という同じ形を仮定しました。年間の最大需要(契約電力)は夏の夕方に出ます。
- 熱は「旅館で3〜4割」。給湯・浴場加温の燃料がエネルギー費に占める割合は、旅館で約24〜38%、ホテルで約12〜13%でした。温泉旅館では、客数に比例する給湯より、毎日かかる浴場の加温・保温の熱のほうが大きくなります(30室の旅館で熱量の約78%、大型旅館で約72%)。
- 基本料金は電気代の約15〜18%。高圧の契約電力は過去1年の最大需要で決まるため、夏の夕方の数時間が1年分の基本料金を決めます。
③打ち手の順番:運用・契約 → 省エネ → 電化・熱転換 → 創エネ → 蓄エネ・蓄熱 → 調達 → モビリティ

業種別マップでは、運用・契約 → 省エネ → 電化・熱転換 → 創エネ → 蓄エネ・蓄熱 → 調達 → モビリティを基本の順番としています。宿泊業はこの順番のままで、③電化・熱転換の段が特に重い業種です。熱源の更新期が近い施設では、ボイラを同じ燃料のボイラに入れ替える前に、ヒートポンプと貯湯槽への置き換えを比べてください。更新後の電気の需要が決まってから太陽光の容量を決めると、無駄がありません。
| 打ち手 | 宿泊業での中身 | この記事での扱い |
|---|---|---|
| ①運用・契約 | 空き客室の空調・照明・給湯循環の停止、浴場の営業時間と保温温度の見直し、夏の夕方の需要の山を作る機器(空調の一斉起動、厨房、ランドリー)の分散、契約電力・料金メニューの確認 | 定性的(投資ほぼゼロで最初に行う) |
| ②省エネ | LED、高効率空調、浴場・配管の保温、ろ過ポンプのインバータ化、排湯・排水からの熱回収 | 定性的(熱のロスを減らすほど③の機器も小さくできる) |
| ③電化・熱転換 | 給湯・浴場加温をヒートポンプ+貯湯槽(蓄熱)に | 試算(216ケースの比較+燃料・単価・効率の感度) |
| ④創エネ | 屋根・駐車場の自家消費型太陽光 | 試算(72ケース) |
| ⑤蓄エネ・蓄熱 | 蓄電池(ピークカット・停電対策)、貯湯槽(熱をためて時間をずらす) | 試算(蓄電池144ケース、停電時の持続時間)。貯湯槽は③の中で評価 |
| ⑥調達 | 再エネメニュー、オフサイトPPA、非化石証書 | 関連記事へ(オフサイトPPAの試算) |
| ⑦モビリティ | 送迎車・社用車のEV化、災害時の給電 | 簡易計算+関連記事へ(商用EVの試算) |
規模と業態で変わること:ビジネスホテル・シティホテル・温泉旅館・大型旅館
- ビジネスホテル:宴会・大浴場がない分、熱の比率は小さく(燃料13%)、都市ガスなら電化の差額も年100万円前後です。高層で屋根が狭く、太陽光でまかなえる電気は5〜8%にとどまります。運用と契約の見直しが中心です。
- シティホテル:宴会・レストラン・プール・空調で電気が大きく、屋根の太陽光は電気の2〜4%です。給湯の電化は年約550万〜650万円の差があり、熱源の更新に合わせた検討の価値があります。脱炭素の大部分は調達(再エネメニュー・PPA)が担います。
- 温泉旅館(小):低層で屋根が広く、太陽光の比率は最も高い施設(電気の13〜23%)です。浴場の熱が大きく、A重油・LPガスを使っていれば電化の差額は年300万円を超えます。客数に対して保温の熱が大きいため、浴槽の保温(ふた・湯面の管理)と運用の見直しも効きます。
- 大型旅館:電化の差額が最も大きく(年約863万円)、太陽光(屋根100kWで年約243万円の削減)の3倍以上です。熱源の更新期に、ヒートポンプ・貯湯槽・太陽光・契約電力をまとめて設計するのが効率的です。
④この試算で確かめたこと・確かめていないこと
- 確かめたこと:屋根・駐車場の太陽光の回収年数、蓄電池の上乗せ分の回収と損益分岐の価格、停電時の持続時間と発電機の燃料の節約、給湯・浴場加温の電化(貯湯槽の有無、燃料の種類・単価・効率の感度、稼働率と浴場の熱量の感度)、何もしない場合の負担増、CO2の削減量。
- 確かめていないこと:空調・厨房・ランドリーの電化、ヒートポンプ・貯湯槽の機器費と工事費、源泉の温度・湯量と排湯からの熱回収、補助金、実際の30分デマンドデータでの検証。これらは「この記事の限界」にまとめています。
検証の方法:4施設×3エリア×太陽光2×蓄電池3×上昇率3=216ケース(+給湯・浴場の電化216ケース)
| 軸 | 水準 | 数 |
|---|---|---|
| 施設モデル | ビジネスホテル(100室・高圧140kW)、シティホテル(300室・高圧1,000kW)、温泉旅館(30室・高圧80kW)、大型旅館(100室・高圧400kW) | 4 |
| エリア | 関東(東京電力EP)、関西(関西電力)、九州(九州電力) | 3 |
| 太陽光 | 屋根のみ(35kW・80kW・48kW・100kW)、屋根+駐車場のカーポート(49kW・180kW・80kW・180kW) | 2 |
| 蓄電池 | なし、契約電力×0.2時間分、×0.4時間分(例:大型旅館で80kWh・160kWh) | 3 |
| 電気代上昇率 | 年1%・2%・3%(基本料金・電力量料金とも) | 3 |
| 合計(太陽光のみ72ケース、蓄電池あり144ケース) | 216 | |
| 給湯・浴場加温(比較) | 今の燃料のボイラのまま、ヒートポンプ+貯湯槽に電化(上の216ケースをそれぞれ計算) | ×2 |
計算は1時間ごと(年8,760時間)です。太陽光の発電量は、EUの共同研究センターが公開するPVGISの東京・大阪・福岡の1時間値を使い、劣化を年0.5%としました。逆潮流(送電網への売電)はせず、余った電気は蓄電池に充電するか、捨てる(出力抑制)前提です。蓄電池は「年間の最大需要を下げる」運転にし、翌日の需要を完全に予測できる場合(上限)の7割まで達成できる運転を「現実的な値」としました。回収年数は「累積収支が最後にプラスに転じた年」で数え、回収できないケースは中央値の計算で「20年超」として含めています。
給湯・浴場加温を電化した216ケースでも、太陽光の回収年数の中央値は同じ9.0年、最長は11.8年で、結論は変わりませんでした。太陽光の電気はほとんど施設内で使い切られ、ヒートポンプに回る余りがほぼないためです。以下、太陽光と蓄電池の数値は、給湯・浴場加温が今の燃料のままの216ケースで示します。
何で稼ぐのか:使った量の単価と、基本料金
- 使った量(電力量料金・燃料費調整・再エネ賦課金)を減らす:太陽光の自家消費と省エネが該当します。高圧の施設では、1kWhあたり税抜で関東約21円、関西約21〜22円、九州約19〜20円の支払いが減ります(2026年11月以降の単価、賦課金4.18円込み、税抜換算)。
- 契約電力(基本料金)を減らす:蓄電池と、ピーク時間の需要を減らす運用が該当します。高圧の基本料金は1kWあたり月約1,700〜2,040円(力率割引後、税抜)で、契約電力を10kW下げると年約20万〜24万円です。
ホテル・旅館の年間の最大需要は、夏の夕方から夜に出ます。太陽光はその時間に発電しないため、今回の試算では太陽光で下がった契約電力は全ケースで0でした。太陽光の価値は「使った量」の削減だけで、契約電力を下げるには、夕方の空調の一斉起動や厨房・ランドリーの運転時間をずらす運用が必要です。
結果①:太陽光は72ケースすべてが保守費込みで12.0年以内に回収、中央値9.0年
太陽光だけを入れた72ケース(4施設×3エリア×太陽光2通り×上昇率3)は、保守費(年3,000円/kW)と13年目のパワーコンディショナ交換(2万円/kW)を入れても、すべて12.0年以内に回収できました。中央値は9.0年(保守費を除くと8.0年)、10年以内は72ケース中59ケースです。10年を超えた13ケースは、10ケースが九州のケースで、残る3ケースは温泉旅館の屋根+カーポート(関東・関西)でした。カーポートは屋根より設置単価が高く(25万〜28万円/kW)、回収が1〜2年遅くなります。

| 施設・太陽光 | 設置費(税抜) | 回収年数(保守費なし) | 回収年数(保守費・交換費込み) | 太陽光でまかなえる電気の割合 |
|---|---|---|---|---|
| ビジネスホテル・屋根(35kW) | 約700万円 | 7.1〜8.7年 | 7.8〜10.0年 | 約5〜6% |
| ビジネスホテル・屋根+カーポート(49kW) | 約1,078万円 | 7.7〜9.6年 | 8.5〜11.0年 | 約8% |
| シティホテル・屋根(80kW) | 約1,360万円 | 6.1〜7.4年 | 6.7〜8.5年 | 約2% |
| シティホテル・屋根+カーポート(180kW) | 約3,860万円 | 7.5〜9.3年 | 8.3〜10.7年 | 約4% |
| 温泉旅館・屋根(48kW) | 約1,008万円 | 7.4〜9.1年 | 8.2〜10.5年 | 約13〜14% |
| 温泉旅館・屋根+カーポート(80kW) | 約1,904万円 | 8.4〜10.5年 | 9.3〜12.0年 | 約21〜23% |
| 大型旅館・屋根(100kW) | 約1,800万円 | 6.4〜7.9年 | 7.1〜9.0年 | 約5〜6% |
| 大型旅館・屋根+カーポート(180kW) | 約3,800万円 | 7.4〜9.2年 | 8.2〜10.5年 | 約10% |
幅は3エリア×上昇率3の9ケースの最小〜最大。まかなえる割合は年間の電気の使用量に対する太陽光の自家消費量の割合。
設置費用が想定より高くても成り立つか
設置費用を3割高くした感度分析では、上昇率2%の24ケース中23ケースが保守費込みで15年以内に回収しました(中央値11.4年、最長15.1年=九州の温泉旅館の屋根+カーポート)。屋根の太陽光は、見積もりが多少高くても判断が変わりにくい打ち手です。電気代の上昇率による違いは小さく、回収の中央値は上昇率1%で9.4年、3%で8.6年でした。
なぜ太陽光は余らないのか
ホテル・旅館は夜も深夜も需要が残り、昼の需要も最大需要の約半分あります。今回の太陽光の容量(契約電力の8〜100%)では、昼の発電はほぼすべて施設内で使い切れ、自家消費率は温泉旅館の屋根+カーポート(98%)を除いて100%でした。余った電気をためる蓄電池の役割は、ホテル・旅館ではほとんどありません。逆に言えば、屋根や駐車場が許す限り載せても無駄になりにくい施設です。低層で屋根が広い旅館ほど、太陽光の比率を上げられます。
結果②:蓄電池の上乗せ分が15年で回収できたのは144ケース中0

蓄電池を足した144ケース(4施設×3エリア×太陽光2×蓄電池2×上昇率3)のうち、上乗せ分の費用が電気代の削減だけで15年以内に回収できたケースは0でした。翌日の需要を完全に予測できる上限の運転でも0です。給湯・浴場加温を電化した144ケースでも同じく0でした。
理由は、今回仮定した需要の形にあります。合成プロファイルでは電気の山が17〜24時の約7時間続き、平均でも最大需要の約78%あります。契約電力の0.2〜0.4時間分の蓄電池は、この長い山の頂上をわずかに削ることしかできず、年間の最大需要の低下は0.2kWh/kWで約4%、0.4kWh/kWで約6%にとどまりました。容量を2倍にしても、最大需要の低下は1.5倍程度にしかなりません。
| 施設・蓄電池 | 容量・設置費(税抜) | 初年度の削減額 | 最大需要の低下 | 損益分岐の価格(中央値) | 15年で回収するのに不足する額(年あたり) |
|---|---|---|---|---|---|
| ビジネスホテル 0.2kWh/kW | 28kWh・約392万円 | 約10万〜13万円 | 約4% | 約6.9万円/kWh | 約12万〜15万円 |
| ビジネスホテル 0.4kWh/kW | 56kWh・約784万円 | 約14万〜18万円 | 約6% | 約4.7万円/kWh | 約33万〜37万円 |
| シティホテル 0.2kWh/kW | 200kWh・約2,800万円 | 約73万〜90万円 | 約4% | 約6.7万円/kWh | 約88万〜106万円 |
| シティホテル 0.4kWh/kW | 400kWh・約5,600万円 | 約101万〜125万円 | 約6% | 約4.6万円/kWh | 約237万〜263万円 |
| 温泉旅館 0.2kWh/kW | 16kWh・約224万円 | 約6万〜9万円 | 約4〜5% | 約7.6万円/kWh | 約5万〜8万円 |
| 温泉旅館 0.4kWh/kW | 32kWh・約448万円 | 約8万〜13万円 | 約6% | 約5.1万円/kWh | 約17万〜21万円 |
| 大型旅館 0.2kWh/kW | 80kWh・約1,120万円 | 約30万〜36万円 | 約4% | 約6.9万円/kWh | 約35万〜42万円 |
| 大型旅館 0.4kWh/kW | 160kWh・約2,240万円 | 約41万〜50万円 | 約6% | 約4.7万円/kWh | 約94万〜105万円 |
初年度の削減額・最大需要の低下・不足額は上昇率2%の6ケース(3エリア×太陽光2)の幅。最大需要の低下は太陽光導入後の最大需要に対する割合。損益分岐の価格は3エリア×太陽光2×上昇率3×電化の有無の36ケースの中央値(図6右と同じ)。不足額は「蓄電池の価格14万円/kWhとの差×容量÷15年」で、停電対策などの価値が毎年これ以上あれば見合う、という目安です。
停電対策として、年にいくらの価値があれば見合うか
蓄電池を入れる理由が停電対策なら、上の表の「不足する額」が判断の物差しになります。たとえば大型旅館で160kWhの蓄電池を入れるなら、停電時に客室・館内の一部を動かせること、災害時に避難者を受け入れられることの価値が、年約94万〜105万円以上あると判断できるかどうかです。ただし次の章で見るとおり、この容量でも停電時に守れる時間は限られます。
熱:給湯・浴場加温をヒートポンプ+貯湯槽にすると、太陽光より大きく効く
ヒートポンプは、電気1kWhで空気中の熱をくみ上げ、約3kWh分の熱を作ります(COP3.0)。ボイラは燃料の熱の約85%しかお湯にできません。1kWhの熱を作るのにかかる費用(税抜)を比べると、差がはっきりします。
| 熱源 | 前提(仮定) | 熱1kWhあたりの費用(税抜) |
|---|---|---|
| A重油ボイラ | 税込140円/L、38.9MJ/L、効率85% | 約13.9円 |
| LPガスボイラ | 税込400円/m3、約100MJ/m3(1m3=2.0kgと仮定)、効率85% | 約15.4円 |
| 都市ガスボイラ | 税込120円/m3、45MJ/m3、効率85% | 約10.3円 |
| ヒートポンプ(貯湯槽で需要の谷に運転) | COP3.0、関東の高圧の電力量単価 税抜約21円/kWh | 約7.0円(契約電力が上がらない場合) |
この単価の差に、年間の熱の量を掛けたものが電化の差額です。ポイントは、ヒートポンプの電気を「いつ使うか」です。夕方〜夜の山の時間に沸かせば契約電力が上がり、基本料金が増えます。貯湯槽にためて、深夜と昼の需要の谷に沸かせば、契約電力を上げずに済みます。今回の試算では、ヒートポンプの出力を「最も熱を使う日を10時間で沸かせる容量」(大型旅館で約153kW)とし、日ごとに需要の谷を埋めるように運転させました。貯湯槽ありのケースでは、全施設で契約電力は上がりませんでした。

| 施設(今の燃料) | 年間の熱量 | 年間の差額(貯湯槽あり)関東・関西・九州 | 貯湯槽なし(7〜19時に運転)関東・関西・九州 | 15年の差額の合計(関東、機器費の上限の目安) |
|---|---|---|---|---|
| ビジネスホテル(都市ガス) | 約274MWh | 約89万・85万・102万円 | 約54万・56万・71万円 | 約1,341万円 |
| シティホテル(都市ガス) | 約1,762MWh | 約575万・549万・655万円 | 約353万・364万・458万円 | 約8,628万円 |
| 温泉旅館(A重油) | 約469MWh | 約321万・315万・343万円 | 約234万・242万・265万円 | 約4,821万円 |
| 大型旅館(A重油) | 約1,260MWh | 約863万・846万・921万円 | 約698万・708万・774万円 | 約1.3億円 |
差額=燃料費の減少−電気代の増加(初年度、税抜、太陽光なし)。15年の合計は上昇率0%の単純合計で、ヒートポンプ・貯湯槽の機器費・工事費、既存ボイラの撤去・維持費、補助金は含まない。この合計より機器費・工事費が安ければ、15年で回収できる目安。
機器費・工事費は施設の条件で大きく変わるため試算に含めていませんが、目安として単純回収年数(機器費÷年間の差額)を示すと、大型旅館(関東、年約863万円)で機器費・工事費が5,000万円なら約5.8年、1億円なら約11.6年です。温泉旅館(年約321万円)では2,000万円なら約6.2年、4,000万円なら約12.5年です(金額は計算例で、見積もりの代わりにはなりません)。
大型旅館(関東)の電化の差額 年約863万円は、屋根の太陽光100kWの初年度の削減額(年約243万円)の3倍以上です。今の燃料が都市ガスのビジネスホテルでは差額は年約89万円と小さくなりますが、それでも屋根の太陽光35kWの削減額(年約85万円)とほぼ同じ規模です。
貯湯槽は「安い蓄電池」:熱をためて時間をずらす
貯湯槽なしで、お湯を使う時間に合わせて昼(7〜19時)に沸かすと、契約電力は大型旅館で約68kW、シティホテルで約91kW上がり、差額は施設により約2割〜4割小さくなりました。電気をためる蓄電池は電気代だけでは元が取れませんでしたが、熱をためる貯湯槽は「契約電力を上げずに電化する」ための設備として価値があります。蓄熱と蓄電池の比べ方は蓄熱・蓄冷シミュレーション|蓄電池との比較と経済性、ボイラとヒートポンプの計算の手順はヒートポンプとボイラーの経済性・CO2計算例で解説しています。
今の燃料・単価・効率しだいで、差額は大きく変わる

- A重油・LPガスの施設ほど電化が効く。大型旅館がLPガス(税込400円/m3)なら差額は年約1,054万円、都市ガス(120円/m3)なら年約411万円です。同じ旅館でも、今使っている燃料で差額が2倍以上変わります。
- 逆転するのは都市ガスが安く、効率が低い場合だけ。都市ガス税込90円/m3・COP2.5では、大型旅館で年約89万円、シティホテルで年約124万円、ビジネスホテルで年約19万円の損になりました。A重油は110円/L・COP2.5でも、大型旅館で年約313万円、温泉旅館で年約116万円のプラスでした。
- ヒートポンプの効率(COP)は、作るお湯の温度で変わります。60℃以上の給湯と、40℃前後の浴場の加温では向く機種が違います。浴場の加温は温度が低いぶん効率を上げやすい一方、給湯用の機種をそのまま使うと効率が下がることがあります。メーカーの年間の効率(季節ごとのCOP)で確認してください。
稼働率と浴場の熱量:旅館は「客がいなくてもかかる熱」が大きい
| 感度(関東、貯湯槽あり) | 温泉旅館 | 大型旅館 |
|---|---|---|
| 客室稼働率 38.2%(観光庁の旅館全体、基本) | 年約321万円 | 年約863万円 |
| 客室稼働率 61.4%(日本旅館協会の会員施設) | 年約365万円 | 年約1,009万円 |
| 浴場の熱量 半分(源泉の温度が高く加温が少ない場合など) | 年約197万円 | 年約551万円 |
| 浴場の熱量 1.5倍(露天風呂が多い・源泉の温度が低い場合など) | 年約436万円 | 年約1,175万円 |
稼働率を38.2%から61.4%に上げても、差額は1〜2割しか増えません。温泉旅館の熱の7〜8割は、客数にかかわらず毎日かかる浴場の加温・保温だからです。逆に言えば、浴場の熱を減らす運用(ふた・湯面の管理、営業時間外の保温温度、循環配管の保温)は、どの打ち手よりも先に効く可能性があります。源泉の温度が高く加温が要らない施設では、浴場の熱は小さくなる一方、排湯の熱を給湯の予熱に回す熱回収が選択肢になります。ホテルでは、給湯の量が客数に比例するため、稼働率60%と85%で差額は年約71万〜101万円(ビジネスホテル)、約466万〜660万円(シティホテル)でした。
雪の多い地域の温泉旅館では、冬に浴場の熱が増える一方、屋根の太陽光は積雪で発電しない月があります。冬の発電ゼロを加味した回収年数の考え方は雪国の太陽光は元が取れない?冬の発電ゼロ4パターン×世帯モデル別に実試算を参考にしてください。冬に使う熱を電化するヒートポンプは、積雪の影響を受けません。
太陽光とヒートポンプは「組み合わせて得」にはならない
「昼の太陽光でお湯を沸かせば、電気代ゼロでお湯が作れる」という説明を見かけますが、今回の施設モデルでは太陽光の電気はほぼすべて客室・館内で使われ、ヒートポンプに回る余りはほとんどありませんでした(温泉旅館の屋根+カーポートで年約1.4MWh、ヒートポンプの電気の1%未満)。太陽光とヒートポンプは、それぞれ単独で得をする独立した打ち手として評価するのが正確です。余りが出るのは、需要に比べて屋根が非常に広い施設や、閑散期・休館日が長い施設です。
停電対策(BCP):主役は発電機、蓄電池は出力で決まる
停電対策を考えるときは、最初に「何を・何秒以内に・何時間守るか」を決めます。宿泊業で守りたいのは、宿泊客の安全(照明・エレベーター・給水ポンプ・通信)、営業の最低限(フロント・予約・決済・冷蔵庫)、そして可能なら客室の一部の空調と給湯です。多くの施設にある非常用発電機は、消防用設備などを動かすための非常電源として設置されていることが多く、客室や厨房まで賄う容量があるとは限りません。まず手元の発電機の容量・燃料の量・対象の回路を確認してください。
蓄電池は「容量(kWh)」より先に「出力(kW)」で決まる

重要負荷を契約電力の15%(ホテル・大型旅館)〜20%(温泉旅館)と仮定し(ビジネスホテル21kW、シティホテル150kW、温泉旅館16kW、大型旅館60kW、いずれも最大値)、停電の開始時刻を1年の8,760通りすべてで試した結果が図7です。
- 出力が重要負荷を下回ると、容量があっても0時間。経済性の試算で使った「出力は容量の半分(0.5C)」の0.2kWh/kWの蓄電池は、全施設で出力が重要負荷に届かず0時間でした。出力を容量と同じ(1C)にしても、守れるのは約1.0〜1.3時間です。
- 発電機なしで守れるのは3時間に届かない。0.4kWh/kWの蓄電池(大型旅館で160kWh)と屋根の太陽光を組み合わせても、中央値は約2.0〜2.6時間でした。日中に停電すれば太陽光で延びますが、夜に始まる停電では蓄電池の容量だけが頼りです。
- 蓄電池だけで長時間を守るのは非現実的。大型旅館の重要負荷(平均約54kW)を蓄電池だけで3時間守るには約193kWh(14万円/kWhで約2,700万円)、72時間なら約4,626kWh(約6.5億円)が必要です。シティホテルでは3時間で約482kWh(約6,747万円)です(使える容量90%・往復効率88%で単純計算)。
もう一つの注意は切替の時間です。停電を検知してから蓄電池の自立運転に切り替わるまでに時間がかかる機種が多く、予約・決済のサーバーや通信機器のように瞬時の停電も避けたい機器は、無停電で切り替わるUPS(常時インバータ方式など)で別に守る必要があります。ピークカット用の蓄電池がUPSの代わりになるとは限りません。切替時間は機種ごとに確認してください。
発電機と組み合わせると、燃料が何倍もつか

現実的な役割分担は「重要負荷は発電機で守り、太陽光(と蓄電池)で発電機の燃料を減らす」です。停電が72時間続く場合、重要負荷の電力量のうち屋根の太陽光が賄える割合は、温泉旅館(屋根48kW)で約35%(燃料が約1.5倍もつ)、ビジネスホテル・大型旅館で約24%(約1.3倍)、シティホテルで約8%(約1.1倍)でした。屋根+カーポートと蓄電池0.4kWh/kWを組み合わせると、温泉旅館で約50%(約2.0倍)になります。
この効果には条件があります。多くの太陽光のパワーコンディショナは、停電中に発電機とつないで動かす(発電機連系)ことを想定していません。発電機の容量に対して太陽光が大きすぎると、発電機の運転が不安定になるおそれもあります。発電機と連系できる機器か、蓄電池を介して自立運転する構成かを、設計の段階でメーカー・施工会社に確認してください。
災害時の受け皿としての宿泊施設:電源と水とお湯
能登半島地震の2次避難では、温泉旅館を含む多くの宿泊施設が被災者を受け入れました。石川県は、平時からの2次避難所の確保や、宿泊施設とのマッチングのルールづくりを課題に挙げています(前掲の内閣府ワーキンググループ資料)。避難者を受け入れる施設にとっては、電気だけでなく、給水ポンプを動かす電源と、入浴・衛生のためのお湯が重要になります。ボイラの燃料の備蓄、ヒートポンプと貯湯槽にためたお湯、発電機と太陽光の連系を、自治体との協定の内容に合わせて設計しておくと、平時の光熱費の削減と災害時の受け入れ能力を同時に高められます。
停電対策として蓄電池を入れるときの設計手順
- 重要負荷を回路ごとに洗い出す(機器・kW・必要な時間・切替の許容時間)。
- 瞬時の停電を避けたい機器(サーバー・通信・決済)は、無停電で切り替わるUPSで守る。
- 発電機の容量・燃料の量・対象の回路を確認し、何時間・何kWを守れるかを数字にする。
- 蓄電池の出力(kW)が重要負荷を上回るかを確認する。容量(kWh)はその後で決める。
- 太陽光と発電機・蓄電池の連系が可能な構成か、メーカー・施工会社に確認する。
- 「電気代の削減額」と「停電対策の価値(不足額)」を分けて稟議に載せる。
モビリティ:送迎車のEVは「燃料代」と「災害時の電源」の2つで考える
旅館の駅からの送迎車や、ホテルのシャトルは、運行の時刻が決まっていて、車庫で待機する時間が長い車です。燃料代だけを比べる簡易計算をすると、年2万km走る送迎車1台で、ガソリン車(燃費8km/L、レギュラー170.1円/L=2026年10月26日の全国平均)が年約38.7万円、EV(電費4km/kWh、関東の高圧の電力量単価 税抜約21円/kWh)が年約10.5万円で、差は年約28.2万円です(燃費・電費・走行距離は仮定、税抜)。
ここで注意したいのは、今回の施設モデルでは太陽光が余らないため、EVに入れる電気は実質的に「買った電気」だという点です。また、夕方〜夜の需要の山の時間に充電すると契約電力が上がるため、深夜に充電する運用が前提です。車両価格の差と補助金を含めた損得は商用EVは元が取れない?用途別・車種別にTCOを実試算、停電時にEVから建物へ給電する価値はV2Hは元が取れない?全国9エリア243ケースを実試算を参考にしてください。災害時には、EVは「動かせる蓄電池」として、フロントや避難スペースの照明・通信の給電に使えます。
反実仮想:何もしない場合、値上がり分だけでいくらになるか

大型旅館(関東)の電気代 年約5,414万円とA重油 年約1,746万円が毎年2%ずつ上がると、上昇分の累計は10年で約6,800万円、20年で約3.1億円です(電気約2.3億円+燃料約7,500万円)。屋根の太陽光100kWが20年間で取り戻すのは、設置費を引いて約3,862万円(保守費・交換費込みで約3,062万円)で、上昇分の約13%です。給湯・浴場の電化の差額の累計は約2.1億円ですが、ここからヒートポンプ・貯湯槽の機器費と工事費を引く必要があります。太陽光は「値上がりの一部を固定する」もので、熱の電化と調達の見直しを組み合わせて初めて、値上がりの大部分に手が届きます。
他の施設でも、何もしない場合の20年の上昇分(電気+燃料、上昇率2%)は、ビジネスホテルで約9,351万円、シティホテルで約6.6億円、温泉旅館で約7,446万円になります。
CO2:重油の旅館では、電化の削減量が太陽光を上回る

太陽光で減らせるのは電気由来のCO2の約2%(シティホテル・屋根)〜約23%(温泉旅館・屋根+カーポート)です。給湯・浴場の電化は、燃料の燃焼分が減る一方で電気の使用が増えるため正味で評価しますが、A重油の旅館では正味でも大型旅館で年約187t、温泉旅館で年約70tと、屋根+カーポートの太陽光(94t・41t)を上回りました。都市ガスのビジネスホテルでは年約13tと小さくなります。電力の排出係数が下がるほど、また再エネの電気を調達するほど、熱の電化の削減効果は大きくなります。施設全体の脱炭素では、残りを再エネメニューやオフサイトPPAで調達するのが現実的です(オフサイトPPAは得なのか?業種別×規模別に実試算、大企業の脱炭素は自家消費?オフサイトPPA?再エネ電力?)。
何が変わると結論がひっくり返るか
| 前提 | この記事の値 | 変わると何が起きるか |
|---|---|---|
| 太陽光の設置費用 | 17万〜21万円/kW(屋根)、25万〜28万円/kW(カーポート) | 3割高くても上昇率2%の24ケース中23ケースが15年以内(最長15.1年) |
| 電気代の上昇率 | 年1〜3% | 太陽光の回収の中央値は9.4年(1%)〜8.6年(3%)でほぼ変わらない |
| 蓄電池の価格 | 14万円/kWh(税抜) | 損益分岐は中央値で約4.6万〜7.6万円/kWh(施設・容量別)、完全予測の上限の最大は約13.9万円/kWh。現実的な制御では価格がほぼ半分にならないと電気代だけでは回収できない |
| 需要の形(ピーク) | 合成プロファイル、17〜24時の長い山 | 短く尖ったピーク(宴会・厨房・空調の同時起動)がある施設ほど蓄電池の価値は上がる。実際の30分デマンドで要確認 |
| 今の燃料と単価 | 都市ガス税込120円/m3、A重油140円/L | 同じ大型旅館でも、都市ガス(年約411万円)に比べLPガス(税込400円/m3)では約2.6倍(年約1,054万円)。都市ガス90円/m3・COP2.5ではホテル2施設とも逆転 |
| 浴場の熱量 | 温泉旅館 平均1,000kWh/日、大型旅館 2,500kWh/日 | 半分なら差額は約6割、1.5倍なら約1.4倍 |
| ヒートポンプの効率(COP) | 3.0 | 2.5〜4.0で大型旅館の差額は年約687万〜1,084万円(A重油140円/L) |
| 重要負荷の比率 | 契約電力の15〜20% | 半分に絞れば蓄電池の持続時間は約2倍、客室の空調まで含めれば数分の1 |
追いかけるべきKPI
- 客室・宿泊者あたりのエネルギー費:稼働率の影響を除いて、省エネ・電化の効果を測ります。電気(kWh)と燃料(L・m3)を別々に追います。
- エネルギー消費原単位:延床面積あたり、または宿泊者あたりのエネルギー使用量。事業者全体で原油換算1,500kL/年度以上の特定事業者には、中長期的にみて年平均1%以上の低減の目標があります(資源エネルギー庁「事業者の区分と義務」)。
- 浴場の熱量(1日あたり):燃料の使用量を浴場と給湯に分けて記録すると、保温の運用やヒートポンプの容量の判断が正確になります。
- 負荷率(デマンド率)と夏の夕方の最大需要:年間平均÷最大需要。夕方の山を作る機器の起動をずらすだけで、基本料金が下がります。
- Scope1とScope2:燃料(Scope1)と電気(Scope2)を分けて追います。太陽光はScope2、給湯の電化はScope1を減らしScope2を増やします。
よくある思い込みと、試算の結果
| よくある思い込み | 試算の結果 |
|---|---|
| ホテルは電気をたくさん使うので、蓄電池で電気代が大きく下がる | 逆。今回の合成プロファイルでは夕方〜夜の山が約7時間続くため、0.2〜0.4時間分の容量では最大需要が約4〜6%しか下がらない。上乗せ分の15年回収は144ケース中0 |
| 太陽光と蓄電池はセットで入れるもの | ホテル・旅館では太陽光はほぼ余らない(自家消費率98%以上)。ためる電気がなく、蓄電池は停電対策の物差しで別に判断する |
| 省エネは電気から | 旅館ではエネルギー費の24〜38%が燃料。電化の差額(大型旅館 年約863万円)は屋根の太陽光の3倍以上 |
| ヒートポンプは家庭用の技術で、旅館の大浴場には合わない | 40〜60℃の給湯・加温なら適用でき、A重油・LPガスからの置き換えでは大きな差額が出る。機種の選び方と年間の効率の確認が前提 |
| 電化すると基本料金が上がるので損 | 貯湯槽で需要の谷に沸かせば契約電力は上がらない。貯湯槽なしだと差額は施設により約2割〜4割小さくなる |
| 稼働率が低い旅館は、設備投資の効果も小さい | 浴場の熱は客数にかかわらずかかるため、電化の差額は稼働率38%でも61%でも大きくは変わらない(大型旅館で年約863万〜1,009万円) |
| 蓄電池があれば停電しても営業を続けられる | 出力が重要負荷を下回れば0時間。0.4kWh/kWでも約2〜2.6時間。主役は発電機と燃料の備蓄 |
施設タイプ別の読み解き
ビジネスホテル(100室・高圧140kW):運用と契約、給湯の電化は熱源更新に合わせて
屋根の太陽光35kWの回収は保守費込みで7.8〜10.0年、まかなえる電気は約5〜6%です。給湯の電化の差額は年約85万〜102万円(都市ガス)と太陽光とほぼ同じ規模で、給湯器の更新期に合わせて比較するのが合理的です。まず空き客室の空調・照明の制御と、夏の夕方の需要の山の確認から始めてください。
シティホテル(300室・高圧1,000kW):給湯の電化と調達が主役
電気代は年約1.3億円で、屋根の太陽光80kWがまかなえるのは約2%です(回収6.7〜8.5年と早いが、量が小さい)。給湯の電化は年約549万〜655万円の差があり、熱源の更新計画に組み込む価値があります。脱炭素の大部分は再エネメニューやPPAによる調達で担います。宴会・厨房・空調の起動の分散は、基本料金の削減に直結します。
温泉旅館(30室・高圧80kW):太陽光の比率が最も高く、浴場の熱が最大の費用
低層で屋根が広く、屋根+カーポートで電気の約21〜23%を太陽光でまかなえます(回収9.3〜12.0年)。エネルギー費の約38%がA重油で、その約8割が浴場の加温・保温です。浴場の保温の運用を見直したうえで、ヒートポンプ+貯湯槽に置き換えると年約315万〜343万円の差額でした。小規模な旅館ほど、機器の選定と補助金の確認を含めた試算の代行が役立ちます。
大型旅館(100室・高圧400kW):電化・太陽光・契約を一度に設計する
電化の差額が年約846万〜921万円と最大で、屋根の太陽光100kW(回収7.1〜9.0年)の3倍以上です。熱源の更新期に、ヒートポンプの容量、貯湯槽の大きさ、太陽光の容量、契約電力をまとめて設計すると、二重の投資を避けられます。避難者の受け入れを想定するなら、発電機と太陽光の連系、お湯の備蓄も同じ設計に含めます。
エリアによる違い
太陽光の回収の中央値は関西8.4年、関東9.1年、九州9.9年で、九州は電力量料金が安いぶん遅くなります。一方、給湯の電化の差額は九州が最も大きく(電気の単価が安いため)、大型旅館で年約921万円でした。同じ施設でも、エリアで「太陽光が先か、電化が先か」の差の大きさが変わります。
施設タイプ別の推奨:どこから手を付けるか
| 施設 | 1番目 | 2番目 | 3番目 | 蓄電池 |
|---|---|---|---|---|
| ビジネスホテル | 運用・契約(空き客室の制御、夕方の山の確認) | 屋根の太陽光 | 給湯の電化(更新期に) | 停電対策の価値で判断(年12万〜37万円以上の価値が必要) |
| シティホテル | 運用・契約(宴会・厨房・空調の起動の分散) | 給湯の電化+貯湯槽 | 調達(再エネメニュー・PPA)と屋根の太陽光 | 同(年88万〜263万円以上) |
| 温泉旅館 | 浴場の保温の運用(ふた・温度・時間) | 給湯・浴場加温の電化+貯湯槽 | 屋根+カーポートの太陽光 | 同(年5万〜21万円以上) |
| 大型旅館 | 浴場の保温の運用と契約の確認 | 給湯・浴場加温の電化+貯湯槽 | 屋根の太陽光、発電機との連系設計 | 同(年35万〜105万円以上) |
経営課題から見た打ち手の価値
- 人手不足:運用の見直しは手間がかかるため、自動制御(客室の在室連動、浴場の温度管理の自動化)と組み合わせる。ヒートポンプは燃料の発注・補給の手間も減らします。
- 稼働率の波:閑散期も毎日かかる浴場の熱が、固定費のように効いてきます。浴場の熱の削減と電化は、稼働率が低い施設ほど売上に対する効果が大きくなります。
- 災害時の役割:発電機・燃料・お湯の備えは、営業の継続と避難者の受け入れの両方に効きます。蓄電池の要否は、その中で「何時間・何kW」を数字にしてから決めます。
稟議に載せる数字の例:大型旅館(関東・高圧400kW、上昇率2%)
| 項目 | 屋根の太陽光100kW | 給湯・浴場加温の電化(ヒートポンプ約153kW+貯湯槽) | 蓄電池160kWh |
|---|---|---|---|
| 投資額(税抜) | 約1,800万円 | 見積もりによる(15年の差額の合計 約1.3億円が上限の目安) | 約2,240万円 |
| 初年度の削減額 | 約243万円 | 約863万円(燃料費の減少約1,746万円−電気代の増加約882万円) | 約41万〜50万円 |
| 回収年数 | 7.9年(保守費込み) | 機器費しだい | 15年で回収できない |
| CO2削減 | 年約52t | 年約187t(正味) | — |
| 停電時 | 発電機の燃料を約1.3倍もたせる(連系できる構成) | 貯湯槽にためたお湯を使える | 屋根の太陽光と組み合わせて約2.6時間(中央値) |
社内の立場ごとに、何を説明すれば合意がとれるか
- 経営者・オーナー:何もしない場合の20年の負担増(大型旅館で約3.1億円)と、打ち手ごとの回収年数・初年度の削減額。
- 施設・設備の責任者:熱源の更新時期、ヒートポンプの設置場所・騒音・重量、貯湯槽の容量、既存ボイラをバックアップに残すか。
- 現場(フロント・浴場・客室):浴場の保温の運用、空き客室の制御のルール、停電時の手順。
- 金融機関・自治体:CO2削減量、災害時の受け入れ能力、補助金の要件。
最初の90日でやること
- 過去12か月の電気の30分デマンドデータと請求書、燃料の購入量・単価を集める(1〜2週目)。
- 燃料の使用量を、給湯・浴場・厨房・暖房に分けて推計する(3〜4週目)。
- 夏の夕方の需要の山を作っている機器を特定し、運用で下げられるか試す(5〜8週目)。
- 熱源の更新時期に合わせて、ヒートポンプ+貯湯槽と同じ燃料のボイラの更新を比べる見積もりを取る(6〜10週目)。
- 屋根・駐車場の太陽光の見積もりと、停電時の重要負荷の一覧を作り、稟議にまとめる(10〜13週目)。
見積もりと試算を受け取ったら確認する8項目
- 電気の需要が実際の30分デマンドデータで計算されているか(合成値なら明記されているか)。
- 太陽光の自家消費率と、まかなえる電気の割合が示されているか。
- 保守費とパワーコンディショナの交換費が収支に入っているか。
- 蓄電池の削減額が「契約電力の低下」と「使った量の削減」に分けて示されているか。
- 蓄電池の出力(kW)が停電時の重要負荷を上回るか、切替時間は何秒か。
- ヒートポンプの電力が契約電力を上げない運転になっているか(貯湯槽の容量と運転時間)。
- 燃料の単価が実質単価(基本料金・配送費込み)で計算されているか。
- ヒートポンプの効率が、作るお湯の温度(給湯60℃以上・浴場の加温)ごとの年間の値か。
エネがえるでできること
エネがえるBizは、産業用・業務用の自家消費型太陽光・蓄電池の経済効果を、施設の30分デマンドデータや業種別のロードカーブ・テンプレートで試算するクラウドサービスです。全国の電力会社の高圧・低圧の料金メニューと燃料費調整単価を反映し、デマンドの削減を含めた回収年数・20年収支・CO2削減量を提案書の形で出力できます。データの準備や試算そのものを任せたい場合は、試算代行(BPO)も利用できます。複数施設の一括試算や、給湯・浴場の電化と停電対策を含めた全体設計は個別にご相談ください。
よくある質問
ホテル・旅館の自家消費型太陽光は元が取れますか?
試算では、ホテル・旅館の太陽光だけの72ケースすべてが、保守費・パワーコンディショナの交換費込みで12.0年以内に回収しました(中央値9.0年)。電気代上昇率2%・関東で、シティホテルの屋根80kWは約7.5年、大型旅館の屋根100kWは約7.9年、30室の温泉旅館の屋根48kWは約9.1年です。夜も需要が残るため発電はほぼ全部施設内で使い切れますが、まかなえる電気はホテルで数%、旅館で約5〜23%です。
ホテル・旅館に蓄電池は必要ですか?
電気代の削減だけでは、蓄電池の上乗せ分が15年以内に回収できたケースは144ケース中0でした。今回の合成プロファイルでは電気の山が夕方〜夜の約7時間続くと仮定しており、契約電力の0.2〜0.4時間分の容量では最大需要が約4〜6%しか下がらないためです。導入するなら、停電時に何を何時間守るかを数字にし、電気代とは別の物差し(大型旅館の160kWhなら年約94万〜105万円以上の価値があるか)で判断します。
停電時、蓄電池でホテル・旅館はどれくらい動きますか?
出力(kW)が重要負荷を下回ると0時間です。重要負荷を契約電力の15〜20%と仮定すると、出力が容量の半分の0.2kWh/kWの蓄電池は全施設で0時間、0.4kWh/kWの蓄電池と屋根の太陽光で約2.0〜2.6時間でした(中央値)。大型旅館で3時間を蓄電池だけで守るには約193kWh(約2,700万円)が必要で、長時間の停電は発電機と燃料の備蓄が主役です。
旅館の給湯・大浴場をヒートポンプにすると得ですか?
A重油(税込140円/L)からヒートポンプ+貯湯槽(COP3.0)に替えると、年間の差額は30室の温泉旅館で約321万円、100室の大型旅館で約863万円でした(関東、機器費は含まない)。LPガスならさらに大きく、都市ガスでも大型旅館で年約411万円です。都市ガスが税込90円/m3まで安く、COPが2.5まで下がると逆転します。貯湯槽で需要の谷に沸かすことが前提で、昼にそのまま沸かすと差額は施設により約2割〜4割小さくなります。
温泉の源泉の温度は電化の損得に影響しますか?
影響します。源泉の温度が低く加温が必要な施設や露天風呂が多い施設では浴場の熱が大きく、電化の差額も大きくなります(浴場の熱量が1.5倍なら大型旅館で年約1,175万円)。源泉の温度が高く加温が少ない施設では差額は小さくなり(半分なら年約551万円)、排湯の熱を給湯の予熱に回す熱回収のほうが先に効く場合があります。燃料の使用量を浴場と給湯に分けて把握するのが最初の一歩です。
太陽光の電気でお湯を沸かせば、さらに得になりますか?
今回の施設モデルでは、太陽光の電気はほぼすべて客室・館内で使われ、ヒートポンプに回る余りはヒートポンプの電気の1%未満でした。太陽光とヒートポンプは、それぞれ単独で得をする別々の打ち手として評価するのが正確です。余りが出るのは、需要に比べて屋根が非常に広い施設や、休館日・閑散期が長い施設です。
送迎車をEVにすると得ですか?
燃料代だけを比べると、年2万km走る送迎車1台で年約28.2万円の差でした(ガソリン車 燃費8km/L、EV 電費4km/kWh、税抜、仮定)。今回の施設モデルでは太陽光が余らないため、EVに入れる電気は実質的に買った電気です。夕方〜夜の需要の山の時間に充電すると契約電力が上がるため、深夜に充電する運用が前提です。車両価格の差と補助金を含めた損得は商用EVの試算で確認してください。
自施設で正確に試算するには何が必要ですか?
過去12か月の30分デマンドデータ(電力会社のWebサービスや検針の記録)、電気・燃料の請求書、燃料の用途別の使用量(給湯・浴場・厨房・暖房)、屋根と駐車場の図面、ボイラ・空調熱源・発電機の容量と設置年、停電時に守る機器の一覧です。デマンドデータがない場合は、業種別のロードカーブ・テンプレートで概算できます。
試算の前提条件(すべて公開)
| 項目 | 設定値 | 出典・根拠 |
|---|---|---|
| 関東 高圧 | 東京電力EP 高圧ベーシックプラン:基本料金2,530円/kW+2026年11月の託送見直し分108.57円/kW(推計)、電力量料金17.43円/kWh、燃料費調整1.50円/kWh(税込、2026年11月分、計量期間の始期が毎月1日ではない場合。始期が1日の場合の単価は11月27日公表予定)。時間帯別の市場価格調整単価は含めていない | 東京電力EP 電気料金単価表(2026年4月1日実施)、同 燃料費調整等のお知らせ(2026年11月分、関東エリア) |
| 関西 高圧 | 関西電力 高圧電力AS等:基本料金2,200円88銭/kW、電力量料金 夏季19円22銭・その他季18円15銭、燃料費調整+0.15円、市場価格調整+0.90円(11月分) | 関西電力 料金表、燃料費調整単価、市場価格調整単価 |
| 九州 高圧 | 業務用電力A:基本料金2,343円19銭/kW、電力量料金 夏季16円98銭・その他季16円05銭、燃料費等調整1.20円/kWh(12月分) | 九州電力 業務用電力A、2026年12月分 燃料費等調整単価 |
| 再エネ賦課金 | 4.18円/kWh(2026年度) | 経済産業省(2026年3月19日公表) |
| 力率・消費税 | 力率100%(基本料金15%割引)。料金・設備費・燃料費とも税抜(税込単価を1.1で割る) | 各社料金表の力率割引の規定。事業者の仕入税額控除を前提 |
| 太陽光の発電量 | PVGIS(ERA5)の東京・大阪・福岡の1時間値。劣化 年0.5% | PVGIS(EU JRC) |
| 保守費・交換費 | 年3,000円/kW+13年目にパワーコンディショナ交換2万円/kW(税抜) | 仮定(業種別×規模別試算と同じ) |
| 排出係数 | 電気:東京電力EP 0.000452、関西電力 0.000415、九州電力 0.000472 t-CO2/kWh(残差、令和6年度実績)。都市ガス:2.09t-CO2/千m3。A重油:2.75t-CO2/kL(38.9GJ/kL)。LPガス:2.99t-CO2/t(50.1GJ/t、1m3=2.0kgと仮定) | 環境省・経済産業省 電気事業者別排出係数、ガス事業者別排出係数(令和8年6月30日公表)、算定方法・排出係数一覧 |
| 電気代上昇率 | 年1%・2%・3%(基本料金・電力量料金とも)。反実仮想では燃料費も年2%上昇と仮定 | シナリオ |
| 契約電力 | 年間の1時間ごとの最大買電量(実量制を簡略化。1,000kWのシティホテルも同じ扱い。500kW以上は実際には協議で決まる) | 仮定(H) |
| 需要の形 | 朝6〜10時は最大の約68%、昼10〜17時は約51%、夕方〜夜17〜24時は約78%、深夜は約45%。夏に約22%・冬に約10%増。日々・時間ごとのばらつきを加えた合成値。負荷率 約0.60。4施設とも同じ形で規模だけ変えた | 出典なし(合成値、H)。業種別×規模別の試算の「ホテル」と同じ形 |
| 施設の規模・宿泊者 | ビジネスホテル100室(稼働率75.3%×1.3人/室)、シティホテル300室(74.1%×1.7人/室)、温泉旅館30室・大型旅館100室(38.2%×2.45人/室。2.45人は日本旅館協会 解説編 p.24 表18の令和6年の1室当り宿泊利用人員)。延床面積はそれぞれ4,500・25,000・3,000・12,000m2(原単位の確認用) | 稼働率:観光庁 宿泊旅行統計調査(2025年確定値)(A)。旅館の1室あたり人数:日本旅館協会 営業状況等統計調査(A)。ホテルの1室あたり人数・契約電力・延床は仮定(H) |
| 太陽光の容量・設置費用 | 屋根:契約電力の25%(ビジネスホテル)・8%(シティホテル)・60%(温泉旅館)・25%(大型旅館)、20万・17万・21万・18万円/kW。カーポート:10%・10%・40%・20%を追加、27万・25万・28万・25万円/kW(税抜) | 仮定(H)。参考:調達価格等算定委員会資料(2026年2月5日) |
| 蓄電池 | 契約電力×0.2時間分・0.4時間分、経済性の試算では出力は容量の1/2(0.5C)、14万円/kWh(税抜)、使える容量90%、往復効率88%、劣化 年1.5%、補機0.2kW/100kWh、寿命15年 | 仮定。業務・産業用の2026年度目標価格11.8万円/kWh(公募要領)を上回る市場価格を想定 |
| 蓄電池の制御 | 年間の最大需要を下げる運転。現実的な値は完全予見の7割を達成と仮定し、完全予見を上限として併記。深夜(0〜6時)に系統から充電できる | 仮定(H) |
| 停電時の計算 | 重要負荷=契約電力の15%(ホテル・大型旅館)・20%(温泉旅館)で、時刻によらずほぼ一定(最大値の85〜100%)。蓄電池は停電開始時に満充電、出力0.5C・1C。太陽光は自立運転・発電機連系できる構成。年8,760通りの開始時刻(発電機併用は365通りの開始日)、上限72時間 | 仮定(H)。関東の日射 |
| 給湯 | 60℃のお湯:1人1日150L(ビジネスホテル)・250L(シティホテル、レストラン・宴会の洗浄を含む)・200L(旅館、客室と厨房)。給水温度は8月25.5℃〜2月6.5℃の正弦 | 仮定(H) |
| 浴場の加温・保温 | 温泉旅館 平均1,000kWh/日、大型旅館 平均2,500kWh/日(熱量)。給水温度が低い冬ほど増える(42℃との温度差に比例)。感度:半分・1.5倍 | 仮定(H)。源泉の温度・湯量・浴槽の大きさで大きく変わる |
| 燃料・ボイラ | 都市ガス 45MJ/m3・税込120円/m3(感度90〜150円)、A重油 38.9MJ/L・税込140円/L(感度110〜170円)、LPガス 約100MJ/m3(1m3=2.0kgと仮定、H)・税込400円/m3(感度300〜500円)、ボイラ効率85% | 単価は仮定(H)。参考:A重油の内航船向け価格は2026年度7〜9月期に14万4,100円/kL(新電力ネット(出典:日本内航海運組合総連合会)、B)。LPガスの家庭用の50m3の価格は全国平均37,305円(2026年9月、石油情報センター、A)で、業務用の大口はこれより安い |
| ヒートポンプ | COP3.0(感度2.5〜4.0)。出力は最も熱を使う日を10時間で沸かせる容量。貯湯槽ありは日ごとに需要の谷の時間に運転、なしは7〜19時に均等に運転 | 仮定(H)。機器費・工事費は含まない |
| 送迎車(簡易計算) | 年2万km、ガソリン車 燃費8km/L・レギュラー170.1円/L(税込、2026年10月26日の全国平均)、EV 電費4km/kWh・関東の高圧の電力量単価(燃調・賦課金込み 税抜約21円/kWh) | 燃費・電費・距離は仮定(H)。価格は資源エネルギー庁「ガソリン全国平均価格の推移」(商用EVの試算と同じ時点) |
この試算の限界
- 需要は合成プロファイルで、実際の施設の30分デマンドデータではありません。4つの施設モデルは同じ需要の形で規模だけを変えています。宴会・レストラン・プールの有無、リゾートの季節変動、週末の山など、施設ごとの違いは区別していません。蓄電池の削減額と停電時の持続時間は、ピークの形と重要負荷の大きさに強く依存します。
- 電気の需要は稼働率によらず一定としました。稼働率を変えた感度分析では、給湯の熱量だけを変えています。
- 給湯・浴場加温の電化は、機器費・配管工事・既存ボイラの撤去または維持の費用、燃料の基本料金・配送費の変化、補助金を含めていません。年間の差額は「投資の上限の目安」として使ってください。
- 浴場の熱量は仮定で、源泉の温度・湯量・浴槽の大きさ・露天風呂の有無で大きく変わります。排湯からの熱回収、空調・厨房・ランドリーの電化、照明・空調の省エネ、オフサイトPPAなどの調達は試算していません。
- 停電時の計算は、満充電・自立運転できる構成の単純計算です。実際には日常の運転で充電残量が減っていることが多く、持続時間は本試算より短くなりえます。太陽光と発電機の連系は、対応機器と設計が前提です。
- 電気代の上昇率は年1〜3%の一定値です。実際の単価は燃料価格・市場価格・制度の改定で年ごとに上下するため、回収年数は幅をもって読んでください。
- エネがえるBizでの照合は今回行っていません。
ファクトチェック・エビデンス検証一覧
主要な数値と主張の根拠と検証方法を一覧にしました。出典はできる限り一次情報(官公庁・電力会社・公的機関の公式資料)にリンクし、仮定とモデル計算は区分で区別しています。
検証の方法
- 一次情報との照合:料金表、燃料費等調整、再エネ賦課金、排出係数、宿泊旅行統計調査・日本旅館協会の調査の数値、能登半島地震の2次避難の数値を公式資料で確認しました(確認日:2026年11月1日)。料金の前提は業種別×規模別の試算(216ケース)と同じで、関東の高圧の燃料費調整単価だけ東京電力EPの公表値(1.50円/kWh)に置き換えています。
- 独立レビュー:独立レビューで指摘された点を修正し、再確認しました。
- 独立計算モデルによる再計算:8,760時間のモデルで216ケース(+給湯・浴場の電化216ケース)を試算し、コードとケース別データで管理しています。中央値は回収できないケースを「20年超」として含めて計算しています。
| 区分 | 意味 |
|---|---|
| A 一次情報 | 官公庁・電力会社・公的機関・業界団体の公式資料で確認した値 |
| B 二次資料 | 研究機関・民間の資料、解説記事など。または原典を作成環境から開けなかったもの |
| M 計算結果 | 本記事の独立計算モデル、またはエネがえるの別記事の試算結果 |
| H 仮定値・推計・専門家判断 | 確かな公表値がないため置いた値。幅や感度で示している |
| 項目 | 記事での値 | 区分 | 検証結果 |
|---|---|---|---|
| 電気料金・燃料費等調整・賦課金・電気の排出係数 | 前提条件の表のとおり | A/H | 確認済み。関東の高圧基本料金は推計 |
| 東京電力EP 高圧の燃料費調整単価 | 1.50円/kWh(2026年11月分、ベーシックプラン、計量期間の始期が毎月1日ではない場合、税込) | A | 東京電力EP「燃料費調整等のお知らせ(2026年11月分)」の関東エリアの表で確認(確認日:2026年11月1日)。公式ページの表は「燃料費調整単価(税込)」。始期が1日の場合は11月27日公表予定 |
| 客室稼働率・延べ宿泊者数 | 旅館38.2%、リゾートホテル56.9%、ビジネスホテル75.3%、シティホテル74.1%、簡易宿所29.6%、全体61.6%。外国人1億7,992万人泊(+9.4%)、日本人4億8,118万人泊(−2.7%) | A | 観光庁「宿泊旅行統計調査(2025年・年間値(確定値))」(2026年7月6日公表)の「施設タイプ別客室稼働率(2025年1月〜12月(確定値))」の表(p.2)で確認 |
| 旅館・ホテルの費用構造 | 人件費29.7%、営業費12.9%、業務費16.6%(水道光熱費を含む)、管理費6.3%、減価償却費6.3%、GOP12.5%、経常利益7.6%(総売上高比)。平均66室、規模別の総売上高、客室稼働率61.4%、1室当り宿泊利用人員2.45人(解説編 p.24 表18) | A | 日本旅館協会「令和7年度 営業状況等統計調査」解説編・資料編(令和6年度の決算、会員の回答施設)で確認。水道光熱費の単独の比率は公表資料に記載なし |
| ホテルのエネルギー消費の特徴 | 水の使用量が多い、宿泊部門の給湯の使用量が部門中で最大で冬に多い、地域熱供給のホテル(延床70,000m2)の原単位2,772MJ/m2 | A | 省エネルギーセンター「ホテルの省エネルギー」(2009年)で確認。古い資料のため、構造の参考として使用 |
| 能登半島地震の2次避難所 | 県内270施設(最大7,322名分)、県外839施設(最大23,806名分)、2月16日に5,275人、基準額7,000円→10,000円 | A | 内閣府 災害対応検討ワーキンググループ(第3回)資料3-2-10(石川県)で確認 |
| 燃料の排出係数・発熱量 | 都市ガス2.09t/千m3、A重油2.75t/kL・38.9GJ/kL、LPガス2.99t/t・50.1GJ/t | A | 環境省・経済産業省「算定方法・排出係数一覧」・「ガス事業者別排出係数」で確認。LPガスの1m3=2.0kgは仮定(H) |
| 燃料単価 | 都市ガス税込120円/m3、A重油140円/L、LPガス400円/m3(感度あり) | H | A重油の内航船向け価格(14万4,100円/kL、B)、LPガスの家庭用価格(A)を参考にした仮定。施設の実質単価で再計算が必要 |
| 省エネ法の原単位 年平均1%低減 | 事業者全体で原油換算1,500kL/年度以上の特定事業者等に、中長期的にみて年平均1%以上の低減の目標 | A | 資源エネルギー庁「事業者の区分と義務」で確認 |
| ガソリン価格 | レギュラー170.1円/L(2026年10月26日の全国平均) | A | 資源エネルギー庁の公表値(商用EVの試算と同じ時点)。国の補助で抑えられた価格 |
| 太陽光の回収 | 72/72ケースが保守費込みで12.0年以内、中央値9.0年(保守費なし8.0年、6.1〜10.5年)、10年以内59ケース。電化した216ケースでも中央値9.0年・最長11.8年 | M | ケース別データで確認 |
| 自家消費率・まかなえる割合 | 98%以上・約2〜23% | M/H | 太陽光容量の仮定に依存 |
| 設置費用3割増の感度 | 24ケース中23ケースが15年以内(中央値11.4年、最長15.1年) | M | 上昇率2%・保守費込み |
| 蓄電池の上乗せ分の15年回収 | 0/144ケース(完全予見の上限でも0、電化した144ケースでも0) | M/H | ピークカット達成度7割の仮定。上限を併記 |
| 損益分岐の蓄電池価格 | 中央値 約4.6万〜7.6万円/kWh(施設・容量別)、上限の最大 約13.9万円/kWh(温泉旅館・関東・屋根+カーポート・0.2時間分・上昇率3%。想定価格14万円とほぼ同水準。価格がわずかに下がれば、完全予測に近い制御では回収圏に入りうる) | M | 15年間の削減額の合計÷容量 |
| 停電時の持続時間・必要容量 | 0.2kWh/kW・0.5Cで0時間、0.4kWh/kWで約2.0〜2.6時間。大型旅館3時間で約193kWh・約2,700万円、72時間で約4,626kWh | M/H | 重要負荷の比率の仮定に依存 |
| 発電機の燃料の持ち | 屋根の太陽光で温泉旅館 約35%(約1.5倍)、ビジネスホテル・大型旅館 約24%(約1.3倍)、シティホテル 約8%(約1.1倍) | M/H | 発電機連系できる構成の仮定。365通りの開始日の中央値 |
| 給湯・浴場加温の電化の差額 | 関東:ビジネスホテル 約89万円、シティホテル 約575万円、温泉旅館 約321万円、大型旅館 約863万円。貯湯槽なしで約54万・353万・234万・698万円 | M/H | 給湯量・浴場の熱量・燃料単価・COPの仮定に依存。感度は図10と本文の表 |
| 何もしない場合の値上がり分 | 大型旅館(関東)10年で約6,800万円、20年で約3.1億円(電気+燃料) | M/H | 上昇率2%の仮定(燃料も同率) |
| 施設モデルと統計の対応 | 大型旅館の電気+燃料は大規模(100室以上)の1室あたり総売上高(約1,100万円)から概算した売上高(約11億円)の約6.5%、シティホテルの1次エネルギー原単位 約2,122MJ/m2 | M/A | 施設モデルの規模感の確認。試算は税抜、調査の税の扱いは未確認 |
| 業種の経営課題・打ち手の位置づけ | 表と図4のとおり | H | 専門家判断。試算値ではない |
試算・分析:エネがえる(国際航業株式会社)/公開日:2026年11月1日/試算条件の確認日:2026年11月1日。更新履歴(2026年11月1日):公開。毎月、燃料費調整・市場価格調整・再エネ賦課金の最新情報を確認し、変化があれば再計算して更新します。関連する試算:病院・介護施設の太陽光・蓄電池は元が取れない?停電対策と給湯の電化まで198ケースを実試算/スーパーの太陽光は元が取れない?冷凍冷蔵×店舗規模×地域の288ケースを実試算/24時間稼働の工場に太陽光・蓄電池・ヒートポンプは割に合う?/業種別のエネルギー費はどこで削れる?24業種×規模別に経営課題と打ち手を整理/補助金の費用対効果の試算/蓄電池243ケースの試算/エネがえる試算ライブラリ。






コメント